独身叔母が死去…遺産総額6,000万円、相続人は4人
今回の相談者は、50代会社員の渡辺さんです。独身の叔母の相続の件で相談したいということで、筆者のもとを訪れました。
亡くなった叔母は、渡辺さんの父親のすぐ下の妹で、結婚歴がなく、子どもも持たなかった方です。祖父母はすでに亡くなっているため、亡くなった叔母のきょうだいが相続人です。
そのきょうだいですが、渡辺さんの父親のほかに、2人の妹がいます。渡辺さんの父親は10年前に亡くなっているため、今回の相続人は、父親の妹である2人の叔母と、父親の代襲相続人となる渡辺さん・渡辺さんの弟の、合計4人です。
亡くなった叔母は70代後半で、数年前から認知症となり、弁護士が後見人についていたそうです。そのため遺言書もなく、遺産分割協議が必要だということでした。
後見人の弁護士から財産目録が届きましたが、遺産は叔母が暮らしていた実家と預金で、合計6,000万円との記載がありました。
「本当なら、長男である私の父が実家を継ぐところだったのでしょうが、仕事の関係で難しく、隣県に自宅を購入しました。いまはそこに弟家族が暮らしています。亡くなった叔母はずっと祖父母と同居して、働きながら老後の面倒も見ていたので、家も叔母の名義になっていたようです」
「あなたたち姉弟には、相続放棄をしてもらいたい」
渡辺さんと弟のところに、叔母2人から遺産分割についての提案がありました。「実家を引き継いでいくので、甥姪であるあなたたちきょうだいには相続放棄をしてもらいたい」という内容でした。
渡辺さんの弟はすぐに同意し、叔母たちに権利を譲渡する書類に印を押しました。
「弟は〈高齢者2人が生活費の足しにするんだから、それくらい譲ってやれよ。本当に姉貴はケチだなぁ〉といってバカにするのですが、私も独身の会社員で、今後のお金が必要なんです」
「亡くなった両親も、弟は大切な跡取りだからといって特別扱いでした。父の遺言で、自宅だけでなく、預貯金の大半も弟が相続したんです」
渡辺さんは納得できないと語ります。感情を押さえながらも、涙をこらえきれません。
渡辺さんの権利は、父親の相続分である3分の1を弟と2人で分けるため、6分の1となり、1,000万円です。
相談に乗っていた筆者の事務所の提携先の税理士は、親身になって話を聞いたあと、渡辺さんに、正当な権利があるのだから、求められるまま相続放棄をする必要などなく、自分の権利分は相続してよいと伝えました。
また、2人の叔母からは直接連絡が来ており、いつでも連絡が取れる状態なので、専門家に依頼せずとも、希望を伝えて合意できれば問題はないのです。
権利や意見を主張しないと、のちのち後悔することに…
渡辺さんは若いころに結婚し、専業主婦となりましたが、30代で離婚。そのあとは、アルバイトや契約社員として複数の会社を経て、いまは地元の小さい会社で事務員をしています。
結婚したとき、当時の配偶者に家庭に入ってほしいといわれ、新卒入社の大手企業を退職してしまったことを、悔やんでも悔やみきれないといいます。
渡辺さんは、叔母たちから相続放棄を当たり前のように迫られたことや、弟からケチだと馬鹿にされ、笑われたことにひどくショックを受けていましたが、権利分の主張は当然であり、してもいいというアドバイスを聞いて、安堵された様子でした。
筆者からは、不動産を時価評価すると価格が上がり、相続分が多くなるものの、合意が得られないケースも少なくないため、交渉には慎重さが必要であるということ、また、話し合ううちに争いになっては大変なので、主張はしつつも、対応は丁重にすることが得策だとアドバイスしました。
不要な争いを引き起こすことは回避したいですが、高圧的な相手の言いなりになったり、権利を主張できずに泣き寝入りしたりすれば、あとあと後悔することになります。自分の権利や自分の資産は、自分で守ることが大切なのです。
※登場人物は仮名です。プライバシーに配慮し、実際の相談内容と変えている部分があります。
曽根 惠子
株式会社夢相続代表取締役
公認不動産コンサルティングマスター
相続対策専門士
◆相続対策専門士とは?◆
公益財団法人 不動産流通推進センター(旧 不動産流通近代化センター、retpc.jp) 認定資格。国土交通大臣の登録を受け、不動産コンサルティングを円滑に行うために必要な知識及び技能に関する試験に合格し、宅建取引士・不動産鑑定士・一級建築士の資格を有する者が「公認 不動産コンサルティングマスター」と認定され、そのなかから相続に関する専門コースを修了したものが「相続対策専門士」として認定されます。相続対策専門士は、顧客のニーズを把握し、ワンストップで解決に導くための提案を行います。なお、資格は1年ごとの更新制で、業務を通じて更新要件を満たす必要があります。
「相続対策専門士」は問題解決の窓口となり、弁護士、税理士の業務につなげていく役割であり、業法に抵触する職務を担当することはありません。