浪費壁のある、シングルマザーの夫の妹に辟易
今回の相談者は、50代専業主婦の佐藤さんです。相続対策について、急ぎ相談に乗ってほしいとのことで、筆者のもとに訪れました。
「私の夫は飲食系の自営業をしていて、コロナの前はかなり羽振りがよかったのです」
佐藤さんは夫の店の常連となったことが縁で、40代で結婚。以後は専業主婦として夫を支えています。お子さんはいません。
「コロナの時期はかなり厳しかったのですが、また商売の状況も戻りつつあるようで、安心していたところ、ちょっと心配なことがありまして…」
佐藤さんが懸念しているのは、夫の妹のことでした。
「義妹は奔放な人で、結婚と離婚を繰り返し、いまは2人の子どもを抱えるシングルマザーなのです」
義妹は若いときから金遣いが荒く、借金を繰り返しては両親にしりぬぐいをさせてきたといいます。その後、堪忍袋の緒が切れた父親は「この借金の肩代わりでおしまいだ。なにも相続させるものはないからな!」と義妹を叱り飛ばしただけでなく、家庭裁判所へ遺留分放棄の手続きもさせました。
また、夫の父親は遺言書を作成しており、世田谷の自宅は同居する佐藤さんの夫が相続することになっています。義妹は、父親の財産に対して遺留分放棄もしているため、とくに問題はなさそうに見えます。
「ですが、姑は義妹に甘くて、舅の目を盗んではお金を渡しているようなのです」
佐藤さんも、佐藤さんの夫も、甘い母親のせいで、浪費癖が治らないのではないかと危惧しているとのことでした。
「いずれはうちの子が引き継ぐのだから」
「あるとき、舅と姑が出かけているときに、義妹が子どもを連れて、ふらっとやってきたのです」
佐藤さんがお茶やお菓子を出して対応していると、義妹は兄である佐藤さんの夫の仕事についてあれこれ話し始めました。
「夫が稼いでいるので、〈稼ぎのいいお兄ちゃんと結婚できて、あなたは幸せね、私はお金がなくて大変〉といった話から、私たち夫婦の結婚が遅かったことや、子どもがいないことをチクチク指摘しはじめて、微妙な空気になったのですが…」
「〈まあいいわ、お義姉さんは子どもがいないから、いずれはお兄ちゃんの財産も私の子どもたちのものになるのだし〉といってニコニコしているんです」
佐藤さんの夫の財産は、コツコツ商売して築き上げた5000万円。佐藤さんは配偶者のため、特例によって相続税の納税は不要ですが、現状のままでは、義妹も相続人に含まれることになります。
子どもがいない場合、親が健在なら親が相続人ですが、親が亡くなっている場合はきょうだいが相続人となり、4分の1の相続権を持つことになります。
「結婚したきょうだいのお金を当てにするって…」
「夫も、これまでの妹の振る舞いや行動にはあきれ果てていて、自分の財産が妹に渡ることは阻止したいといっています。両親のお金はともかく、結婚したきょうだいのお金を当てにするって、いったいどういうつもりなのでしょう…」
筆者と提携先の司法書士は、万一夫が亡くなり相続が発生した際、きょうだいが相続人に含まれることがないように、遺言書の作成をお勧めしました。
きょうだいには遺留分の請求権がないため、夫婦とも「全財産を配偶者に相続させる」という内容の遺言書を作成すれば、義妹の相続人としての立場を排除できるのです。
遺言書の内容はシンプルでOK
遺言書の内容はシンプルでよく、財産の詳細を書かなくても「全財産」という表現で作成できます。また、互いに「配偶者に相続させる」という文言で問題ありません。
筆者と司法書士からの提案に納得した佐藤さんは、後日、夫と一緒に遺言書の作成に着手し、無事に完了しました。
「これで、妻の生活を守ることができます」
佐藤さんの夫は、安堵した表情をされていました。
きょうだいには遺留分の請求権がないため、夫に万一のことがあっても、義妹が遺産を請求してくることはありません。とはいえ、遺言書が不可欠のため、懸念事項のある方は、速やかに作成しておくことが望ましいといえます。
※登場人物は仮名です。プライバシーに配慮し、実際の相談内容と変えている部分があります。
曽根 惠子
株式会社夢相続代表取締役
公認不動産コンサルティングマスター
相続対策専門士
◆相続対策専門士とは?◆
公益財団法人 不動産流通推進センター(旧 不動産流通近代化センター、retpc.jp) 認定資格。国土交通大臣の登録を受け、不動産コンサルティングを円滑に行うために必要な知識及び技能に関する試験に合格し、宅建取引士・不動産鑑定士・一級建築士の資格を有する者が「公認 不動産コンサルティングマスター」と認定され、そのなかから相続に関する専門コースを修了したものが「相続対策専門士」として認定されます。相続対策専門士は、顧客のニーズを把握し、ワンストップで解決に導くための提案を行います。なお、資格は1年ごとの更新制で、業務を通じて更新要件を満たす必要があります。
「相続対策専門士」は問題解決の窓口となり、弁護士、税理士の業務につなげていく役割であり、業法に抵触する職務を担当することはありません。