(※写真はイメージです/PIXTA)

終わりのみえないロシア・ウクライナ戦争では、対人の陸上戦にとどまらず「偽情報拡散による情報戦」が目立っていると、元陸将の渡部悦和氏と井上武氏、元海将補の佐々木孝博氏はいいます。ロシアが繰り広げる「情報線」の内容と目的とは、詳しくみていきましょう。※本連載は、渡部悦和氏、井上武氏、佐々木孝博氏の共著『プーチンの「超限戦」その全貌と失敗の本質』(ワニ・プラス)より一部を抜粋・再編集したものです。

「偽情報」拡散による情報戦

渡部 露宇戦争を通じロシアが行っている情報戦を具体的に検証してみると、「偽情報拡散」による情報戦が非常に目立っています。

 

「偽情報拡散による情報戦」は、例を挙げればきりがないほど確認されています。その最たるものが「ブチャの惨劇」をウクライナのやらせだとした偽情報拡散でした。

 

これについては、即座に英BBCや米『ニューヨーク・タイムズ』紙などがファクトチェックを行い、ロシアの主張の信憑性を否定しました。そのため、国際社会がロシアの偽情報に基づく影響工作に乗ることはありませんでした。

 

まずは、ロシアによるこのような偽情報の拡散について議論していきます。

 

佐々木 ロシアによる偽情報の拡散による情報戦は、以前から、頻繁に行われてきました。代表的なものは2014年のクリミア併合時の情報戦や2016年の米大統領選での関与事例です。

 

クリミア併合時では、侵攻前にウクライナ軍が使用する通信系を物理的につぶしたうえで、ウクライナ軍が携帯電話を使用せざるを得ないように誘導し、その携帯電話通信を乗っ取るという手法を採りました。

 

さらに、虚偽の指令を出して部隊をある場所に誘導し、一網打尽に攻撃しています。また、その携帯電話通信で「上級指揮官はすでに逃亡したので戦闘を継続する必要はない」など戦意を喪失させるような偽情報を流していたことも確認されています(※1)[図表1]。

※1.産経新聞「露軍の電子・サイバー戦の一体的展開が判明無線遮断し偽メールで誘導、火力制圧」2020年5月10日〈https://www.sankei.com/article/20200510-NVNOZWK6HVONNGQYFESYLRTYLU/〉(2022年8月17日アクセス)

 

[図表1]クリミア併合時の情報戦イメージ
[図表1]クリミア併合時の情報戦イメージ

 

井上 2016年の米大統領選では、選挙介入し、ロシアにとって好ましくなかった民主党のヒラリー・クリントン候補に不利になるような偽情報が流れました。2014年も2016年も偽情報拡散による情報戦はロシアの企図するように実行されてしまったといえるのかもしれません。

 

今回の露宇戦争では、どのようなことがいえるのでしょうか。

次ページロシアがウクライナに仕掛けた「偽旗作戦」とは

※本連載は、渡部悦和氏、井上武氏、佐々木孝博氏の共著『プーチンの「超限戦」その全貌と失敗の本質』(ワニ・プラス)より一部を抜粋・再編集したものです。

プーチンの超限戦 その全貌と失敗の本質

プーチンの超限戦 その全貌と失敗の本質

渡部 悦和 井上 武 佐々木 孝博

ワニ・プラス

2022年6月、ワニブックス【PLUS】新書として発刊され好評を博した『ロシア・ウクライナ戦争と日本の防衛』の続編が、読み応えある単行本として登場。3人の自衛隊元幹部が、プーチンとロシアが行っている戦争を「超限戦」と捉え…

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