「偽情報」拡散による情報戦
渡部 露宇戦争を通じロシアが行っている情報戦を具体的に検証してみると、「偽情報拡散」による情報戦が非常に目立っています。
「偽情報拡散による情報戦」は、例を挙げればきりがないほど確認されています。その最たるものが「ブチャの惨劇」をウクライナのやらせだとした偽情報拡散でした。
これについては、即座に英BBCや米『ニューヨーク・タイムズ』紙などがファクトチェックを行い、ロシアの主張の信憑性を否定しました。そのため、国際社会がロシアの偽情報に基づく影響工作に乗ることはありませんでした。
まずは、ロシアによるこのような偽情報の拡散について議論していきます。
佐々木 ロシアによる偽情報の拡散による情報戦は、以前から、頻繁に行われてきました。代表的なものは2014年のクリミア併合時の情報戦や2016年の米大統領選での関与事例です。
クリミア併合時では、侵攻前にウクライナ軍が使用する通信系を物理的につぶしたうえで、ウクライナ軍が携帯電話を使用せざるを得ないように誘導し、その携帯電話通信を乗っ取るという手法を採りました。
さらに、虚偽の指令を出して部隊をある場所に誘導し、一網打尽に攻撃しています。また、その携帯電話通信で「上級指揮官はすでに逃亡したので戦闘を継続する必要はない」など戦意を喪失させるような偽情報を流していたことも確認されています(※1)[図表1]。
※1.産経新聞「露軍の電子・サイバー戦の一体的展開が判明無線遮断し偽メールで誘導、火力制圧」2020年5月10日〈https://www.sankei.com/article/20200510-NVNOZWK6HVONNGQYFESYLRTYLU/〉(2022年8月17日アクセス)
井上 2016年の米大統領選では、選挙介入し、ロシアにとって好ましくなかった民主党のヒラリー・クリントン候補に不利になるような偽情報が流れました。2014年も2016年も偽情報拡散による情報戦はロシアの企図するように実行されてしまったといえるのかもしれません。
今回の露宇戦争では、どのようなことがいえるのでしょうか。