(※写真はイメージです/PIXTA)

いまだ終息の兆しがみられないロシア・ウクライナ戦争。このようななか、元陸将の渡部悦和氏と井上武氏、元海将補の佐々木孝博氏は、ロシアによる「“戦術核”使用の可能性」について警鐘を鳴らします。では、具体的にロシアがどのような状況になると「核兵器の使用」を決断してしまうのか、みていきましょう。※本連載は、渡部悦和氏、井上武氏、佐々木孝博氏の共著『プーチンの「超限戦」その全貌と失敗の本質』(ワニ・プラス)より一部を抜粋・再編集したものです。

核に関する諸問題…ロシアは「戦術核」を使用するか

渡部 ロシアは、戦況が不利だと判断した場合、戦術核を使用する可能性があります。なぜなら、西側諸国とまったく違った核戦略を持っていて、戦術核使用のハードルは我々が思うほど高くはないからです。

 

9月末の時点で、ウクライナ軍が南部戦線や東部戦線で反撃を行い、ロシア軍は徐々に追い詰められています。プーチンは9月21日の演説で「我が国の領土保全が脅かされるようなことがあれば、ロシアと国民を守るためにあらゆる手段を駆使する。これはハッタリではない」と発言しています。

 

このような状況でロシアによる戦術核の使用が懸念されます。

 

佐々木 ロシアは、全領域戦を考慮する「新たな世代の戦い」を遂行しています。その概要を[図表]に示します。

 

[図表]全領域戦を考慮するロシアの「新たな世代の戦い」
[図表]全領域戦を考慮するロシアの「新たな世代の戦い」

 

そのなかで、戦術核の使用は通常戦力の延長線上で捉えているとみられます。とくに、「核兵器使用規定」によれば次の4つの要件に該当した場合、核を使用する可能性があります。

 

第1は、ロシアおよび同盟国を攻撃する弾道ミサイルの発射に関して信頼の置ける情報を得た場合。

第2は、ロシアおよび同盟国に対し核兵器または大量破壊兵器が使用された場合。

第3は、機能不全に陥ると核戦力の報復活動に障害をもたらす死活的に重要なロシア政府施設、または軍事施設に対して敵が干渉を行った場合。

第4は、通常兵器を用いたロシアへの侵略によって国家存亡の危機に立たされた場合

 

です。以前はどの要件も偽情報の拡散で使用する可能性があると考えましたが、現状では第2要件、または第4要件を使用するのではないかと考えています。

 

渡部 第4要件はわかりますが、第2要件を使用して戦術核攻撃するというのはかなり無理があると思います。ウクライナは核兵器を保有していませんし、化学兵器や生物兵器も保有していません。

 

井上 ロシアは、戦術核の使用を通常戦力の延長戦上で捉えており、戦況が著しく不利となった場合は、戦術核の使用は想定すべきだと考えています。しかしながら、その可能性は低いとみています。

 

ロシアは、核の恫喝(どうかつ)で西側諸国の対応を抑止する戦略「エスカレーション抑止」を開戦当初から常套としており、西側諸国は、ロシアの描いた術中に嵌(はま)っています。

 

冷戦時代にNATOが採用した柔軟反応戦略において、圧倒的な戦力を有するワルシャワ条約機構軍の攻撃を抑止するため、NATOは核兵器の先制使用をオプションとして採用していました。

 

現在、通常戦力で劣勢にあるロシアが、NATOの攻撃を抑止するために、このような考えを採ることは不思議なことではないと思います。

 

NATOとロシアの全面戦争が開始されれば、核兵器の使用は、現実味があるオプションとなりますが、西側の対応は極めて抑制的であり、ウクライナ軍のみでロシアの核兵器使用の4条件に該当する状況を生起させる可能性は少ないとみています。

 

ロシアの核使用は警戒すべきですが、ロシアの核の恫喝に支配されてはいけない。

 

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※本連載は、渡部悦和氏、井上武氏、佐々木孝博氏の共著『プーチンの「超限戦」その全貌と失敗の本質』(ワニ・プラス)より一部を抜粋・再編集したものです。

プーチンの超限戦 その全貌と失敗の本質

プーチンの超限戦 その全貌と失敗の本質

渡部 悦和 井上 武 佐々木 孝博

ワニ・プラス

2022年6月、ワニブックス【PLUS】新書として発刊され好評を博した『ロシア・ウクライナ戦争と日本の防衛』の続編が、読み応えある単行本として登場。3人の自衛隊元幹部が、プーチンとロシアが行っている戦争を「超限戦」と捉え…

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