(※写真はイメージです/PIXTA)

終わりのみえないロシア・ウクライナ戦争では、対人の陸上戦にとどまらず「偽情報拡散による情報戦」が目立っていると、元陸将の渡部悦和氏と井上武氏、元海将補の佐々木孝博氏はいいます。ロシアが繰り広げる「情報線」の内容と目的とは、詳しくみていきましょう。※本連載は、渡部悦和氏、井上武氏、佐々木孝博氏の共著『プーチンの「超限戦」その全貌と失敗の本質』(ワニ・プラス)より一部を抜粋・再編集したものです。

ロシアが行った影響工作の裏にある「3つの目的」

井上 ロシアはこのような偽情報の拡散を、どのくらいのレベルで実行していたのでしょうか。

 

佐々木 ロシアの偽情報拡散の統計をとっているMYTHOSLABSのレポートによると、2011年1月から10月までは、ロシアの偽情報を拡散するアカウントが58であったのに対し、12月~翌年1月には697に、1月から2月には914と激増したとのことです(※3)

※3.MythosLabs,InvestigatingTwitterDisinformationinUkraine,〈https://mythoslabs.org/2022/01/04/investigating-twitter-disinformation-in-ukraine/〉(2022.8.27)

 

ロシアの偽情報拡散が凄まじくなっていたことが受け取れるとともに、それらを把握していたウクライナ側(西側諸国の支援を含む)の偽情報対処能力の高さも窺い知ることができます。

 

井上 8月になって米マンディアント社(※4)がロシアの情報工作についてレポートをまとめ発表しました(※5)。そのなかで、ロシアが行った影響工作の目的は次の3つであると述べられています。

※4.マンディアント社は、サイバーセキュリティとサイバー防御における業界をリードするテクノロジー企業で、とくにインテリジェンス分析に強い

※5.Mandiant,TheIOOffensive:InformationOperationsSurroundingtheRussianInvasionofUkraine,May192022〈https://www.mandiant.com/resources/information-operations-surrounding-ukraine〉(2022.8.18)

 

即ち、第一は「ウクライナ国民の士気を下げること」、第二は「ウクライナを同盟国から分断すること」、第三は「ロシアに対するイメージの向上」ということです。各々はどのように実行されていたのでしょうか。

 

佐々木 マンディアント社のレポートによれば、第一の「ウクライナ国民の士気を下げること」では、2014年時と同様に「『ゼレンスキー大統領が「ウクライナはロシアに降伏した」との声明を発表した』という、AI生成のディープフェイク動画を流布」したり、「ゼレンスキー大統領が侵攻作戦を指揮していたキーウの軍事施設で自殺した」と偽ったり、「ゼレンスキー大統領がマリウポリで兵士を見殺しにしたとして、大統領に報復を企てたアゾフの司令官が、民間人のふりをして都市から脱出しようとした」等の偽情報が拡散されました。

 

井上 第二の「ウクライナを同盟国から分断すること」の目的ではどのようなことが実行されたのでしょうか。

 

佐々木 この目的では、西側支援の拠点になっていたポーランドに対して偽情報拡散が激しく行われていたことが明らかになっています。

 

即ち「ポーランドの犯罪組織がウクライナ難民から臓器を採取して、欧州連合(EU)に違法輸出している」との偽情報を拡散したり、〝ポーランドにウクライナ難民受け入れに対する恐怖、不安、疑念を抱かせ、ポーランドとウクライナの関係を悪化させる〟などの工作活動が目立っていました。

 

また、「米国による対イラン戦争など、他国の差し迫った紛争に西側が関心を向けているため、ウクライナはすぐに忘れ去られ見捨てられるだろう」という偽情報の拡散もテレグラムで確認されています。

 

井上 最後の「ロシアに対するイメージの向上」についてはどうでしょう。

 

佐々木 この目的に関しては挙げればきりがないのですが、「親ロシア的な論評を強調、推進するなかで、SNSユーザーに対し、ウクライナのナチがマリウポリの劇場に市民を強制的に連れて行き、それを爆発させた」と主張したり、「ウクライナ軍が化学兵器を使用した」という主張を含むロシア語のメッセージを宣伝したり、「ロシアのウクライナ侵攻に対する欧米の対応(対ロシア制裁など)の効果を否定し、こうした措置が逆に欧米の経済に悪影響を及ぼす」と主張したりなどがあります。

 

これらは、ウクライナにおけるロシアの戦争犯罪を否定し、ウクライナ軍に対する反論を行うなど、否定と偏向を通じてロシアに対するイメージを〝向上〟させることを目的としたものです。

 

井上 マンディアントレポートでは、中国がロシアの情報戦に同調していることも指摘していますね。

 

佐々木 親中国の情報操作キャンペーン「DRAGONBRIDGE」は、ロシアのウクライナ侵略に呼応して情報を拡散していました。英語と中国語による「DRAGONBRIDGE」のコンテンツには、「ウクライナで生物兵器研究を行う米国防省と連携した研究所の存在」を主張するなど、ロシアの国営メディアや影響工作が推進するシナリオを反映させるものが多々確認されました。

 

親中国と親ロシアの両方の情報操作活動によって、「米国の生物兵器研究所が危険な研究に関与している」とする内容を拡散していたということです。

 

 

渡部 悦和

元陸上自衛隊 陸将

 

井上 武

元陸上自衛隊 陸将

 

佐々木 孝博

元海上自衛隊 海将補

 

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※本連載は、渡部悦和氏、井上武氏、佐々木孝博氏の共著『プーチンの「超限戦」その全貌と失敗の本質』(ワニ・プラス)より一部を抜粋・再編集したものです。

プーチンの超限戦 その全貌と失敗の本質

プーチンの超限戦 その全貌と失敗の本質

渡部 悦和 井上 武 佐々木 孝博

ワニ・プラス

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