ロシアが挑んだ情報戦…「偽旗作戦」とは
佐々木 今回の露宇戦争でも、ロシアは偽情報による情報戦を多々挑んでいた形跡があります。その代表例がいわゆる「偽旗作戦」です[図表2]。
とくに、東部ドンバス地区で企図されていたようですが、ロシアの特殊部隊や民間軍事会社の工作員などが事前に東部地区にこっそり侵入し、親ロシアの人民共和国兵士に対して攻撃を行う。これをウクライナ軍の行為として偽装しています。これが偽旗作戦です。
その行為を根拠として、ロシア側は「ウクライナ軍がミンスク合意を反故(ほご)にし、不当な攻撃を行った」と喧伝(けんでん)する。それを、以後のロシア軍の軍事侵攻の正当化の理由に使いました。
また、そのような偽情報をウクライナ政権が受けることにより、政治判断を誤った方向に誘導するという認知戦に用いることが企図されていたと言われています。
2014年とは異なり、このような偽旗作戦を使った情報戦はロシアの企図したとおりには実行できませんでした。
その大きな要因は、ウクライナ側が2014年の事象を受けて、情報を拡散する主体を事前に把握し対応をしていたこと、偽情報には即座にファクトチェックがなされる体制にあったこと、さらには、一国民に至るまで情報(インテリジェンス)に対するリテラシー教育がなされていたことなどが挙げられると思います。
3月31日に「ウクライナ保安庁(SBU)が、ロシアによる侵攻が始まって以来、偽情報の発信拠点となっていた5つの大規模なボットファーム(ボットネットワーク〔一般にサイバー攻撃者が悪意あるプログラムを使用して乗っ取った、多数のゾンビコンピュータで構成されるネットワークのこと〕の拠点)を閉鎖した」と伝えられました。
SBUによれば、これらのボットファームでは、10万以上のSNSアカウントを使用してウクライナへの攻撃やウクライナ軍の状況に関する偽情報を発信・拡散していたとのことです(※2)。
※2.ウクライナ保安庁「戦争の開始以来、ウクライナ保安庁は一〇万を超える偽のアカウントを収容できる5つの敵のボットファームを排除した」2022年3月28日〈https://ssu.gov.ua/novyny/z-pochatku-viiny-sbu-likviduvala-5-vorozhykh-botoferm-potuzhnistiu-ponad-100-tys-feikovykh-akauntiv〉(2022年8月18日アクセス)
このように、偽情報を拡散していた拠点を西側諸国の協力のもとで即座につぶしていたことも大きかったと思います。