昨年2月、ウクライナ侵攻が開始された後すぐに、西側各国はロシアに対し「経済制裁」を加えました。輸出入禁止措置は2023年5月現在、12月31日までとなっています。専門家らがまとめた内部資料をもとに、経済制裁がロシアに与える具体的な「経済的打撃」についてみていきましょう。※本連載は、渡部悦和氏、井上武氏、佐々木孝博氏の共著『プーチンの「超限戦」その全貌と失敗の本質』(ワニ・プラス)より一部を抜粋・再編集したものです。
経済制裁は、確実にロシアを「弱体化」させている
渡部 プーチンは2022年9月7日の東方経済フォーラムで、「ロシアは、特別軍事作戦で何も失っていない」と虚勢を張っていますが、米国等の西側諸国の経済制裁は確実にロシア経済を弱体化しています。
ブルームバーグは9月6日、ロシア政府の内部資料を根拠に、「ロシアでは米国や欧州による制裁の影響が広がるなか、より長期かつ深刻なリセッション(景気後退)に見舞われる可能性がある」と報道しています※。
※ Russia Privately Warns of Deep and Prolonged Economic Damage, Bloomberg, 2022.9.6
この内部資料はウクライナ侵攻によるロシアに対する経済制裁の影響を正確に判断しようと、専門家らがまとめたもので、プーチンなど当局者が通常示す楽観的な公式発表に比べて遙かに悲観的な内容になっています。
2025年までに「深刻な頭脳流出」が起こる
内部資料で示されたシナリオ3つのうち、ふたつは経済縮小が来年加速し、経済が戦争前の水準に戻るのは2030年以降だとしています。欧州がロシア産石油・天然ガス依存から急転換を図ることで自国市場への供給能力も打撃を被るかもしれないとまで指摘しています。
テクノロジーや金融分野の制裁も強い下押し圧力になります。また、最大20万人のIT技術者が2025年までに国外に出る可能性に言及しています。これは深刻な頭脳流出です。
前・富士通システム統合研究所安全保障研究所長
元ハーバード大学アジアセンター・シニアフェロー
元陸上自衛隊東部方面総監
1978(昭和53)年、東京大学卒業後、陸上自衛隊入隊。その後、外務省安全保障課出向、ドイツ連邦軍指揮幕僚大学留学、函館駐屯地司令、東京地方協力本部長、防衛研究所副所長、陸上幕僚監部装備部長、第2師団長、陸上幕僚副長を経て2011(平成23)年に東部方面総監。2013年退職。著書に『米中戦争―そのとき日本は』(講談社現代新書)、『中国人民解放軍の全貌』(扶桑社新書)、『日本の有事』(ワニブックス【PLUS】新書)、共著に『台湾有事と日本の安全保障』『現代戦争論―超「超限戦」』(ともにワニブックス【PLUS】新書)がある。
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連載元自衛隊幹部が解説…ロシア・ウクライナ戦争の“本質”
元陸将
1954年徳島県生まれ。元陸将。1978年、防衛大学校卒(22期)。陸上自衛隊入隊後、ドイツ連邦軍指揮幕僚大学留学、在ドイツ防衛駐在官、陸上自衛隊富士学校長等を経て、2013年退職。陸上自衛隊の最新兵器について『月刊JADI』(日本防衛装備工業会)等の雑誌に数多く寄稿。
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元海将補
1962年東京都生まれ。元海将補。1986年防衛大学校卒(30期)、博士(学術)。海上自衛隊入隊後、オーストラリア海軍大学留学、在ロシア防衛駐在官等を経て、下関基地隊司令。2018年退職。著書に『近未来戦の核心 サイバー戦』(育鵬社)など。
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