元陸将の渡部悦和氏と井上武氏、元海将補の佐々木孝博氏は、ロシア軍は戦況が悪くなった場合「核兵器を使っても驚かない」といいます。ただし、その際には「原爆」のようなイメージとはまったく異なる攻撃となるようです。プーチンがたくらむ「核攻撃」とはどのようなものなのでしょうか、みていきます。※本連載は、渡部悦和氏、井上武氏、佐々木孝博氏の共著『プーチンの「超限戦」その全貌と失敗の本質』(ワニ・プラス)より一部を抜粋・再編集したものです。
ロシア軍が「核攻撃」をする確率は何%?
渡部 たしかにロシアの戦術核使用のハードルは日本人が考える以上に低いと思います。しかし、戦術核であっても核の使用は、国際的な批判や制裁をうけ、国際的な孤立化を招くことは容易に想像できます。
私は、以前から中国や北朝鮮による核爆発による電磁パルス(EMP:Electro Magnetic Pulse)攻撃(=核EMP攻撃)について警鐘を鳴らしてきました。じつは中国や北朝鮮のEMP攻撃の技術は旧ソ連の技術を模倣したものです。ロシアが核EMP攻撃を行ったとしても私は驚きません。
EMP攻撃は、パソコン、自動車、飛行機、電力、通信、そのほかの重要インフラストラクチャーの稼働に必要な小型電子機器や制御システムを損傷または破壊できます。
井上 核EMP攻撃の実験については、米国が1962年、北太平洋上空で行った高高度核実験「スターフィッシュ・プライム」が有名です。高度400キロメートルの宇宙空間での核爆発で電磁パルスが発生し、爆心から1400キロメートルも離れたハワイ・ホノルルなどでも停電が引き起こされ、その威力が実証されました。
露宇戦争におけるロシアの核EMP攻撃の可能性について佐々木さんはどう思いますか。
佐々木 仮にロシアが戦術核を使用したとしても、ロシア国内は情報統制により、ウクライナが先制使用したとか、ウクライナにそそのかされた西側諸国が先制使用したなどのナラティブを流し、国内支持を維持することは可能でしょう。
そのような情勢下、ロシアが核使用を決断するに至ったならば、やはり低威力の戦術核を高高度で爆発させる、即ちEMP爆弾として使用するオプションを使うのだと思います。
前・富士通システム統合研究所安全保障研究所長
元ハーバード大学アジアセンター・シニアフェロー
元陸上自衛隊東部方面総監
1978(昭和53)年、東京大学卒業後、陸上自衛隊入隊。その後、外務省安全保障課出向、ドイツ連邦軍指揮幕僚大学留学、函館駐屯地司令、東京地方協力本部長、防衛研究所副所長、陸上幕僚監部装備部長、第2師団長、陸上幕僚副長を経て2011(平成23)年に東部方面総監。2013年退職。著書に『米中戦争―そのとき日本は』(講談社現代新書)、『中国人民解放軍の全貌』(扶桑社新書)、『日本の有事』(ワニブックス【PLUS】新書)、共著に『台湾有事と日本の安全保障』『現代戦争論―超「超限戦」』(ともにワニブックス【PLUS】新書)がある。
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連載元自衛隊幹部が解説…ロシア・ウクライナ戦争の“本質”
元陸将
1954年徳島県生まれ。元陸将。1978年、防衛大学校卒(22期)。陸上自衛隊入隊後、ドイツ連邦軍指揮幕僚大学留学、在ドイツ防衛駐在官、陸上自衛隊富士学校長等を経て、2013年退職。陸上自衛隊の最新兵器について『月刊JADI』(日本防衛装備工業会)等の雑誌に数多く寄稿。
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