「もう帰らないのだから、売るわ」実家の売却価格3500万円…施設入所の80代母の「即断即決」が救った、50代ひとり娘の〈介護不安〉

「もう帰らないのだから、売るわ」実家の売却価格3500万円…施設入所の80代母の「即断即決」が救った、50代ひとり娘の〈介護不安〉
(※写真はイメージです/PIXTA)

父親が亡くなってから気丈にひとり暮らしをしていた母親も、高齢となり健康不安を抱えるようになりました。施設に入所してもらい安堵したひとり娘ですが、今度は誰も住まなくなった空き家をどうするべきか、頭を悩ませることに…。相続実務士である曽根惠子氏(株式会社夢相続代表取締役)が、事例をもとに解説します。

気丈な80代の母も、次第に足腰が弱り…

今回の相談者は、50代会社員の林さんです。現在、施設に入っている80代の母親について心配事があるとのことで、筆者の事務所を訪れました。

 

林さんはサラリーマン家庭に育ったひとり娘で、大学進学後、都内の企業に就職。大学時代の同級生と結婚しました。子どもはなく、夫婦2人、会社員として今も働いています。

 

「父親は70代で亡くなってから、母はひとり暮らしをしていました。ご近所づきあいやお友達との交流も多く、それなりに楽しそうに過ごしていたのですが…」

 

元気だった林さんの母親ですが、80代半ばになると体の衰えが目立ち始め、日常生活にも支障が出てきました。母親から林さんのところにも手伝いを求める母親から頻繁に電話が入るようになりましたが、夫婦の自宅や勤務先から実家まで、電車で2時間近くかかるため、急な呼び出しへの対応は困難です。

「実家に帰るという選択肢はありません」

「来ていただいていた介護ヘルパーさんは〈そろそろ1人暮らしが不安になってきました〉とおっしゃいますし、夫婦で相談して、母を介護施設に入所させたのです。2年前のことです」

 

しかし、母親を施設へ入所させて安堵したのもつかの間、今度は空き家となった実家の管理に不安を覚えるようになりました。

 

「母親はまだ頭はしっかりしていますが、足腰が弱ってしまい、1人で自宅に帰ることができません。入所した当初は、コロナでの面会制限もありましたので、実家は空き家状態なのです」

 

林さん夫婦は、都心部にマンションを所有しており、実家に帰るという選択肢はないそうです。

母親が認知症になれば、あらゆる手続きが困難に

筆者と提携先の税理士がくわしく話を聞いたところ、林さんの実家不動産は、父親が亡くなったときに母親名義に変更したとのことでした。そのため、実家の売却には母親の意思確認が不可欠です。

 

筆者と税理士は、母親の意思が確認できるうちに、空き家となった実家を売却したほうがいいとアドバイスしました。現在はまだ認知症の兆候はないとのことですが、介護施設へ入所された方のなかには、一気に症状が進行するケースもあり、売却するなら急いだ方が安心です。

 

万一介護費用が足りなくなり、自宅を売却したいと思っても、そのときに母親の認知症が進んで意思確認ができなければ実現不可能となってしまいます。売却には、相続発生のタイミングまで待たなければならないのです。

 

筆者と税理士がこのように説明したところ、林さんは「すぐ母親に相談します」といって足早に帰宅されました。

実家売却、80代母親が即断したワケ

林さんに自宅売却のアドバイスをしてから1週間後、早速電話がありました。

 

「母に相談したところ〈もう帰ることもないから、売却してもいい〉といわれました」

 

林さんの母親は、介護施設に入居した際に貴重品を持ち出していましたが、仏壇のほか、生活に使っていた品々は自宅に残したままでした。母親の許可を得た林さんは、夫婦で仏壇等の供養・処分のほか、不用品の整理・処分を速やかに行いました。

 

相談に乗ってくれたのは、林さんの夫と付き合いのある不動産会社で、3500万円と、予想外の高値で売却することができました。

 

空き家が現金になったことで、介護費用への懸念もなくなり、林さんは「安心しました」と笑顔を見せてくれました。

 

認知症となり「意思能力が低下した状態」になってしまうと、契約行為等が一切おこなえなくなります。相続や資産に関連しては、以下のようなことができなくなれます。

 

●金融機関での預金の払出、振込、預金の解約、借入など

●生命保険の契約締結、解約、変更など

株や債券の取引など

●不動産の売却、購入、賃貸、土地測量、建替え、改修工事など

現金、住宅や教育などの資金贈与など

遺言書、遺産分割協議、民事信託契約など

 

このように身近なことから、資産を動かすときなど様々な場面で何もできなくなります。

親が認知症になると、あらゆることに不都合が…

では、具体的にどのような場面で支障が生じるのでしょうか。

 

①日常の生活費への支障

電気、ガス、水道などの光熱費、家賃、食費、日用品費などの日常生活でかかる費用、その他に介護施設の月額利用料、医療費などが払えなくなります。

 

金融機関に「親が認知症で手続きができない」という事実が伝わると、親の口座が凍結され、お金が動かせなくなる可能性があります。そうなると、必要な支払いを子どもが立て替えなければならず、金銭的な負担がのしかかってきます。

 

②実家売却への支障

親を介護施設へ入居させる費用を、自宅を売却したり、賃貸に出すことで捻出するケースは少なくありません。しかし、所有者である親が認知症となり、意思能力が低下してしまうと、売買契約や賃貸契約が締結できなくなってしまいます。

 

潤沢な資金があれば問題ありませんが、家を売却できず資金が用意できない場合は、やむなく自宅介護を選択したり、子どもが負担することになります。資金の余裕がなければ、希望外の遠隔地の施設に入所し、家族にも精神的・肉体的な負担が生じる懸念があります。

 

③遺言書で揉めることも

認知症の疑いがある場合、親がのこした遺言書をめぐって、相続人間で争いが起こることも考えられます。公正証書であれば、作成時に公証人が確認して作成しますので、否認されることはないのですが、自筆遺言の場合、本人の意思ではないと主張されることがあり、遺言書自体が無効になることもあります。

 

遺言書が無効となると、相続人間での遺産分割協議をすることになりますが、そもそも、遺言書無効の裁判の時点から感情的な対立状態にあるわけで、円満な話し合いは困難でしょう。遺産分割協議が整わなければ、相続税の節税になる特例も使えず、弁護士費用もかかるなど、相続人にとっていいことはありません。

認知症対策として、民事信託という方法も

親の財産を介護費・生活費に充てたくても、親が認知症となり意思能力が低下していれば、実現は極めて困難です。そのような事態を回避するには「民事信託」契約も有効な選択肢です。

 

民事信託契約があれば、親が認知症になっても、財産を託された子どもが親の代わりに、不動産や金融商品の売買、賃貸物件の運営などの契約ごとができるため、認知症で空白期間が生じる心配がありません。

相続の現場からのアドバイス

将来的な活用の予定のない、空き家となった自宅は、所有者である両親が認知症になる前に売却することをお勧めします。なかには、思い入れが強く、売却に抵抗がある方もいらっしゃいますが、一時的な感情で売却をためらうと、老親の介護費用の捻出に行き詰まったり、何年も空き家状態にしたことで物件価値が損なわれ、売ろうにも売れないといった、厳しい状況に陥るリスクがあります。

 

そもそも、親の認知症が進み、意思確認が取れなくなれば、家の売却はもちろん、あらゆる手続きができなくなります。親御さんが自宅に戻らない、また、子どもたちも住まないという場合は、速やかな決断が必要です。タイミングを逃せば、相続の発生まで売却できず、空き家のまま放置せざるを得ません。経年劣化する・維持管理に負担のかかる財産を抱え続けるのは、想像以上に大変なことなのです。

 

 

※登場人物は仮名です。プライバシーに配慮し、実際の相談内容と変えている部分があります。

 

 

曽根 惠子
株式会社夢相続代表取締役
公認不動産コンサルティングマスター
相続対策専門士

 

◆相続対策専門士とは?◆

公益財団法人 不動産流通推進センター(旧 不動産流通近代化センター、retpc.jp) 認定資格。国土交通大臣の登録を受け、不動産コンサルティングを円滑に行うために必要な知識及び技能に関する試験に合格し、宅建取引士・不動産鑑定士・一級建築士の資格を有する者が「公認 不動産コンサルティングマスター」と認定され、そのなかから相続に関する専門コースを修了したものが「相続対策専門士」として認定されます。相続対策専門士は、顧客のニーズを把握し、ワンストップで解決に導くための提案を行います。なお、資格は1年ごとの更新制で、業務を通じて更新要件を満たす必要があります。

 

「相続対策専門士」は問題解決の窓口となり、弁護士、税理士の業務につなげていく役割であり、業法に抵触する職務を担当することはありません。

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    本記事は、株式会社夢相続のサイト掲載された事例を転載・再編集したものです。

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