(写真はイメージです/PIXTA)

マンションにおいて、適切な維持・管理のために欠かせない大規模修繕。しかし修繕積立金が不足するケースは多く、問題となっています。なぜ修繕積立金は不足するのか。ニッセイ基礎研究所の渡邊布味子氏が解説します。

長期修繕計画通り貯めているのに、修繕積立金はなぜ足りなくなるのか

修繕積立金の不足は、下記の点から現実的に避けることが難しい。

 

(1)将来の大規模修繕費を正確には予想できない

確かに、設備等の耐用年数から「いつまでに大規模修繕が必要で、いつ大規模修繕を行うか」を計画することはできる。しかし、大規模修繕を行うのは遠い将来のことである。建物の建築費は上昇を続けており、2024年問題や、人口減によりさらに上昇していくと考えるが、これらの不確定要素をすべて織り込みつつ、10年後、20年後の大規模修繕費を正確に予測するのは不可能である。長期修繕計画では、今後のコスト上昇を十分に加味していないケースが多く、実際は足りなくなることが多くなると思われる。

 

(2)修繕費の計算主体が売り主である

修繕積立金の収支計算は、きちんとした見積等に基づいているのではと思う人もいるかもしれない。しかし、大規模修繕を実施する建設会社は、5年後とか10年後の予想できない将来の工事請負について正式な見積書を出すことはない。つまり、新築時に修繕積立金がいくらかかるのかを計算するのはそのマンションの売り主またはマンションの管理会社である。

 

売り主は、これまで販売や管理のノウハウを活用して費用の見積もりを積み上げていることが多く、売り主が計算したからといって、全く信頼できない数字というわけではない。しかし、売り主が「毎月の管理費や修繕積立金等の負担額を下げて、マンションを売れやすくしたい」という思惑を捨てるのは難しく、どうしても毎月の修繕積立金は実際よりも少なくなる傾向がある点は否定できない。

 

(3)収支計画の期間をどの程度の長さにするかの基準が緩く設定されている

「何年分までの計画で修繕積立金の収支計画をたてればよいと考えるか」は判断主体(新築時は売り主、マンションの使用開始後は管理組合と区分所有者)が、建物を今後どの程度の期間使用すると考えるかなどにより決まってくる。

 

国土交通省の「マンションの修繕積立金に関するガイドライン」で示される修繕積立金の額は、過去の事例を分析して求めた目安額を参考に、長期修繕計画の計画期間30年で必要になる修繕工事の総額を同時期の30年で積み立てることを推奨している。つまり、売り主が「国土交通省のガイドライン通りの30年の長期修繕計画とし、現在のコストで修繕積立金を見積れば問題ない」と考えていたとしても間違いではない。

 

一方で、区分所有者は30年より長く住み続けるという考えを持っている人も少なくないと思われる。従って、同じマンションで多くの区分所有者が同様な考えがあるなら、当初の収支計画を修正する必要がある。建物を長く使用するなら、売り主が想定する修繕積立金では不足する可能性が高いので、その期間に応じた大規模修繕費相当額を積み立てるために、毎月の修繕積立金の額も相対的に高くする必要がある。

 

(4)複数回の大規模修繕毎に修繕積立金を厳密に分けて保管しているわけではない

大規模修繕を定期的に行うと、その度に大きな費用が発生する。当初計画時に費用を確定することはできないので、収支計画で予想したよりも少ないこともあれば多くなることもあるが、前述したように当初計画より費用超過となるケースが多い。一方、修繕積立金は、毎月の積み立て分を大規模修繕毎に分けて保管しているわけではないため、ある時点の大規模修繕費が当初計画より多くなってしまった場合には、その後の大規模修繕費が足りなくなる。そのため、足りない分は、毎月の修繕積立金を多くするか、大規模修繕一時金を区分所有者から徴収することが必要となる。

 

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※本記事記載のデータは各種の情報源からニッセイ基礎研究所が入手・加工したものであり、その正確性と安全性を保証するものではありません。また、本記事は情報提供が目的であり、記載の意見や予測は、いかなる契約の締結や解約を勧誘するものではありません。
※本記事は、ニッセイ基礎研究所が2023年4月5日に公開したレポートを転載したものです。
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3. e-Govポータル. 空家等対策の推進に関する特別措置法.
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