(写真はイメージです/PIXTA)

機関投資家の間で、不動産投資を減速させる動きがあるといいます。外国資本による最新・不動産投資動向について、ニッセイ基礎研究所の渡邊布味子氏が解説します。

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機関投資家のオルタナティブ投資額は減少する見込み

オルタナティブ投資市場では、機関投資家が投資額を増加させてきた。イギリスの調査会社のプレキンによると、アジア太平洋地域内で機関投資家が新たに組成されたオルタナティブ投資ファンド*1へ投資した額は、2018年には前年比+60%、2021年には+54%と増加している。しかし2022年は1,170億ドル(約13兆4,700億円、前年比▲19%)、2023年は1,247億ドル(約16兆3,500億円、前年比+7%)と予想され、一旦減速する見込みである(図表1)

 

【図表1】
【図表1】

 

今後の投資について、2022年11月に、オルタナティブ投資のアセット別に長期的に投資額を増加させたいと回答した機関投資家の割合が多かったのは、プライベートデッドが63%(2019年11月の41%から22%増加)、インフラが58%(同43%から+15%増加)であった(図表2)

 

しかし、2022年11月の不動産については投資増加の回答割合が19%(同38%から▲19%減少)に低下した(図表2、3)。機関投資家は各資産に対する長期的な戦略的資産配分を事前に設定し、ある資産への投資配分が事前の計画を超えると、その資産への投資をひかえるのが通常である。商用不動産については、多くの市場で明確な価格下落が発生していないなか、2022年は上場株式や債券価格が下落した。相対的に不動産への投資割合が増加したために、不動産への投資額が戦略的投資配分相当に近づき、新たに不動産へ投資する余力がない機関投資家が増加していると見られる。なお、2023年上半期の調査によると、機関投資家の不動産に対する戦略的資産配分は、平均10.7%となっている。

 

【図表2】【図表3】
【図表2】【図表3】

 

*1:ここではオルタナティブ投資のうち、プライベートエクイティ、プライベートデッド、ヘッジファンド、インフラ、不動産へ投資するファンドを指す。

超富裕層が新たな購入者層として期待される

不動産は、2008年の世界金融危機のように、高い価格水準で売り出したが買い手がつかず、売り主が資金繰りに困り投げ売りをはじめると、市場が崩壊して不動産価格が下落する。最近の国内取引では、売り出される不動産が少ないために取得競争による価格上昇が著しく、期待利回りの急速な低下から利益を見込めずに、物件取得入札に打ち勝つ高い水準の金額を提示できない投資家が多いようだ。

 

しかし、現在は、物価上昇への対策として米国連銀が政策金利を急速に引き上げており、その影響で長期金利も上昇し、金利上昇による不動産の価格下落リスクを意識せざるを得ない状況にある。一方で、不動産にはインフレに強いという期待もあるため、投資家の投資意欲が高まり、価格が上昇するかもしれないという複雑な投資環境である。こうした状況では、機関投資家などが不動産投資を控えたとしても、新たな投資家が登場すれば、不動産市場は高い価格水準を維持できるかもしれない。筆者は、こうした新たな投資家として期待できるのは、コロナ禍で資産を増加させた超富裕層ではないだろうかと考えている。

 

米国の調査会社のアルトラータによると、資産額が3,000万ドル(約40億円)以上の超富裕層は、2022年上半期には、全世界に約39.2万人(2021年末比▲6%、2019年末比約+9%)、保有資産は41兆8,240億ドル*2(約5,480兆円)となった。国籍別では米国が約12.1万人・保有資産額13兆4,040億ドルと最も多く、次いで中国が約5.1万人・5兆6,060億ドル、ドイツが約2.0万人・2兆2,260億ドル、日本が1.7万人・1兆4,120億ドルと推定され、ほとんどが外国資本である。

 

同社によると、超富裕層の資産配分は3割以上が現金等の流動性資産と推定されている。現金等はインフレに弱い資産であり、インフレの進む現在の経済情勢から他の資産に配分される可能性があると考える。

 

*2:2019年は35兆4,240億ドルとの推計値が公表されているが、推計モデルの改訂により2022年上半期の公表値とそれ以前の公表値とは連続性がない。一応2022年上半期は2019年比+18%と計算できるものの、改定後のモデルでは推計値が以前のモデルより増加しており、資産額の伸びはこれよりも少ないと推定される。

 

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※本記事記載のデータは各種の情報源からニッセイ基礎研究所が入手・加工したものであり、その正確性と安全性を保証するものではありません。また、本記事は情報提供が目的であり、記載の意見や予測は、いかなる契約の締結や解約を勧誘するものではありません。
※本記事は、ニッセイ基礎研究所が2023年4月14日に公開したレポートを転載したものです。

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