リファラル採用を推進するための「スタンス」
これまで私は多くの日本企業の人事担当者の方とお会いしてきました。そのなかで感じたことは、日本企業の人事担当者の特性として、「自分自身が自社のことをおすすめしたいと強く思えていないので推進ができない」「うちの会社の社員は動いてくれないと思う」と悲観的に考えて、足が止まっている方がすごく多いということです。
こうした理由は、外資系企業ではほぼ見たことがありません。
その背景として、人事組織構造の違いや文化の違いなどもありますが、大きく異なるのはリファラル採用を目的ではなく、よい会社を作る手段として捉えられているかどうかです。
海外では、従業員体験(Employee Experience/エンプロイ・エクスペリエンス)を専門に扱うチームがリファラル採用を推進しているケースも少なくありません。つまり、よい会社を作っていくための従業員体験の1つとしてリファラル採用を位置付けているのです。
また、リファラル採用を推進することで、結果的にエンゲージメントが高まっていくという効果もあります。
リファラル採用を、「よい会社をつくる手段」として捉え、自分自身がファンづくりのディレクターになった気持ちでリファラル採用を推進していくことが重要です。
ではこれらのスタンスを踏まえ、どのようにリファラル採用を進めていくのか?
その第一歩の踏み出し方として「準備編」をお伝えしていきます。
リファラル採用を始める前準備、「ゴ」「ル」「フ」
準備編の構成は、リファラル採用を成功に導く事前準備として、リファラル採用の「ゴルフの設計」の重要性についてお伝えします。
ゴルフといっても、スポーツのゴルフではありません。
リファラル採用の「ゴルフ」とは、
ゴ…ゴール設計
ル…ルール設計
フ…フロー設計
の頭文字を指しています。
リファラル採用は短期的な視野で見ると工数がかかりますが、長期的には、会社の文化として根付き、自然と人が集まるような会社を作ることができる大きなメリットがある仕組みです。
それでは、具体例を踏まえてゴール設計から見ていきましょう。
リファラル採用の中長期的な「ゴ」ール設計
これは何もリファラル採用だけの話ではありませんが、全社を巻き込む施策において重要なことは、意義や目的を明確にすることです。
リファラル採用は、スカウトを打っていく採用手法と違い、全社員を巻き込んで推進していく必要があります。人事部門で完結する採用施策ではない分、短期的な成果ではなく、中長期にわたって仕組みを作っていくことが大事になります。KGI・KPIといった目標を設定しなければ、PDCAを回して改善していくこともできません。その結果、導入したはいいものの、活用されないまま形骸化するということも起こりえます。
導入準備段階において、リファラル採用を「なぜやるのか」を定めることが必要なのです。
■中長期の定量ゴールを設定する
前提として、採用計画やそれを実現する戦略は各社で異なるものです。例えば、現状自社で年間100名採用しているなかで70%を人材紹介に依存し、年間1.5億円ほどかかっている場合には、採用コストを1億円まで下げるといったことが目標になるかもしれません。
他にも、離職率を下げることを目標に据えている会社もあります。現状離職率が15%であれば、リファラル採用の比率を高めて離職率を10%まで下げることをゴールにする、そういったアプローチも考えられるでしょう。
ここで重要なことは、「2ヵ月で●●名採用する!」といったような近視眼的な数値を設計するのではなく、中長期の目線でゴールを設計することです。
多くの企業における人事・採用担当者は、現場からは早急な人材確保が要求され、経営からも短期的な成果を求められます。
リファラル採用は制度を設計して運営を開始すれば、すぐに爆発的に応募が増えるわけではありません。中長期にわたって会社をよくしていくという視点を持つことが重要です。
■定性的な状態目標を設定する
また、リファラル採用を推進する際には、定量的なゴールを設定するだけでなく、定性的な状態目標も設定することがポイントです。一般的に採用担当者は採用人数を追うことが主業務なので、「3ヵ月で10名採用」といった定量的な観点ばかりに注目しがちです。
しかし、リファラル採用の場合には定性的で、中長期的な目的もセットで考えることが重要です。例えば、エンゲージメントの向上などは定性的な状態目標として挙げられやすいです。1年、2年、3年後といった長いスパンで、エンゲージメントがどのように向上していくことを目指すのか、目標を立てていけるとよいでしょう。
リファラル採用が文化として定着したある上場メーカーでは、リファラル採用の目的はあくまで社員が「自分の大切なご家族・友人を紹介したいと思える場をつくること」であり、その先に、結果として採用決定が生まれるという定性的な状態目標を置くことで成功を収めています。
残念ながら、「目的がなく定量目標だけを設定しているケース」や「目的・目標が具体的でなく、ゴールと進捗状況が不透明」といった場合は失敗するケースが多いです。あるべき姿としては、目的として「現場全員で仲間集めをすることで、エンゲージメントを向上させ持続可能な採用チャネルを確立する」とし、リファラル採用の定量目標として「〇名の社員が自社を紹介し、その結果〇名の決定、〇円のコストカットを実現できている状態」といった内容をセットで掲げられている状態です。
社内を説得するうえでのストーリー設計
定量目標、定性目標が定義できれば、いよいよ社内を巻き込むうえでのストーリー設計に入ります。
リファラル採用は担当者で完結するのではなく、経営層や社員を巻き込む施策であり、だからこそ強力なエンゲージメント施策になるということは先述しました。
このような複数のステークホルダーを巻き込んでいく場合、ストーリーが極めて重要になります。ストーリーを設計できていないと、人事の担当者が「リファラル採用を実施したいけれど社内稟議を通せない」といった事態が起こります。特に大企業であれば、「人材紹介やダイレクト・リクルーティングのほうがラク」という結論になりかねません。
そうした時に目前の結果だけでなく、リファラル採用が文化として根付いた時にどのような組織になっているか、といった中長期のストーリーを語ることで社内を巻き込みやすくなるのです。
中長期的なプロジェクトになると腹を括ることができれば、その変遷を確認しながら、社内にリファラル採用を定着させていくことができます。リファラル採用は4〜5ヵ月目頃が最も人事担当者へ負荷がかかります。それでも、先を見越していれば、「これを乗り越えれば、成果が待っている!」と目標達成に進んでいくことができるはずです。
企業へのリファラル採用の導入プロセスを、少しだけ具体的に解説します。
制度の設計をしてから社員を巻き込んで浸透させていくと、社員のなかから友人に声掛けする者が現れ始めます。潜在層へ声掛けをしていくことになるので、応募が発生してから採用を決定するのはまたその数ヵ月後になることを踏まえておきましょう。
リファラル採用の成功事例が出てきたら、それを社内に伝播していきます。そういった地道な取り組みを続けていった結果、ようやく協力社員がどんどん増えていくスパイラルが起き始めます。そうなれば、リファラル制度を利用する社員がマジョリティ化していき、文化として定着します。
定着が図られるまでのスパンは企業規模などによって異なります。
リファラル採用をまったく行っていない大手企業の場合には、文化として定着するまでに2年ほどのスパンがかかると見るべきです。一方で、社員数70名くらいのベンチャー企業であれば、全社を巻き込んで半年未満で推進できるケースもあります。
このような中長期スパンで目標を設定するには、段階的なゴールを意識しましょう。例えば、現状リファラル採用の年間比率は全体の3%なので、1年目で5%とし、1年半で10%まで持っていき、2年目で20%としよう、というイメージです。
こうしたステップを踏んでいくことで、少しずつリファラル採用の文化が根付いていくのです。
次回は、リファラル採用の「ゴルフ」のうち、『ル』ール設計について解説します。
鈴木 貴史
株式会社TalentX(旧株式会社MyRefer) 代表取締役CEO
《最新のDX動向・人気記事・セミナー情報をお届け!》
≫≫≫DXナビ メルマガ登録はこちら