「理系学生」争奪戦の勝ち組・住友ファーマが、「優秀な人材を採用するため」内定者に伝えている“ひと言”

「理系学生」争奪戦の勝ち組・住友ファーマが、「優秀な人材を採用するため」内定者に伝えている“ひと言”
(※写真はイメージです/PIXTA)

信頼できる友人・知人からの紹介を通じて人材を獲得する採用手法、「リファラル採用」。従来の採用方法よりコスト削減でき、ミスマッチを抑制できるなどさまざまなメリットがあります。リファラル採用を成功させるには、どんな準備・実践が求められるのでしょうか? 鈴木貴史氏の著書『人材獲得競争時代の戦わない採用「リファラル採用」のすべて』(日本能率協会マネジメントセンター)より一部を抜粋し、成功事例として「住友ファーマ株式会社」を紹介します。

住友ファーマ株式会社

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【企業データ(2022年12月)】

従業員数:3,054名(連結:6,816名)

業種:医薬品

領域:新卒採用

採用目標:約50名

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「リファラル採用」の導入背景

住友ファーマは、「人々の健康で豊かな生活のために、研究開発を基盤とした新たな価値の創造により、広く社会に貢献する」という企業理念を掲げ、革新的な新薬を創出している国内大手製薬会社です。研究職、開発職、MR職(営業職)を中心に毎年およそ50名の新卒採用を行っています。

 

従来の採用課題は、大きく2つありました。1つ目は、どの会社からも必要とされるような優秀な人材を採用したいけれど、理系人材の獲得競争が激化しているということです。コンサルなどの他業界でも理系学生が求められ、理系学生をビジネス職として採用する企業も増えているなか、自社の魅力をきちんと発信し、最終的に就職先として選んでもらうためのコミュニケーションが必要でした。

 

2つ目は、優秀な人材を見逃しているかもしれないという懸念です。短い面接だけでは適性やポテンシャルを見極めきれない可能性があります。

 

 

そんななか、住友ファーマが実施した内定者アンケート結果から、内定者の80%以上が就職活動について「友人・知人に相談している」ことが明らかになり、入社の決め手は「社員の魅力」と回答する内定者が60.7%(他社平均は43.2%)で最も多いとわかりました。そのため、社員の魅力を最大限活かしたいと考えて、社員や内定者を巻き込むリファラル採用に注力していくこととしました。リファラル採用では、通常の選考よりも前に学生と接点が持てることもよい点だと考えています。早い段階から学生と接し、自然な会話から学生のホンネをうかがえるため、一人ひとりの学生のことを知りつつ、社員の魅力を通じて志望度をあげるという狙いを持ちました。

若手社員や内定者が「より紹介しやすい仕組み」づくり

【準備:従来の採用課題を洗い出して再設計】

これまでもMR職で若手社員と内定者からの紹介者限定としてリファラル採用を実施したことはあります。しかし「紹介したいと思う方は、すでにインターンシップに応募されていた」、「声を掛ける基準がわからない」など内定者も困っていた印象がありました。MR職では別途インターンシップを複数回実施していること、理系だけでなく文系の学生も採用していることから、人柄や地頭のよさ、ゼミや部活動、アルバイトでの活躍など目線が様々になってしまうことが紹介の難しさになっている課題があります。一方、研究職と開発職に就く学生たちは、大学の研究室で多く時間を過ごすなかで後輩や先輩のことをよく知っており、専門性やキャラクターが当社にマッチするかどうかもわかっています。そこで、研究職と開発職でのリファラル採用の設計に注力し、若手社員や内定者がより紹介しやすい仕組みづくりに努めました。

 

【認知:内定者の主体性を重んじることを明言】

まずは、内定式で内定者全員にリファラル採用の意義を説明しました。先ほどのアンケートが示したように、住友ファーマの内定者は「社員の魅力」に惹かれて、入社を決定した人たちです。その方々から見て、一緒に働きたいと思う人を紹介してくれれば自然とマッチする人材が集まると考えています。そのため、人事担当者の目線は気にせず、「あなたがいいと思う人を紹介してほしい」と内定者に伝えていきました。

 

【共感:対等なプロジェクト仲間であることを意識】

内定者全員でリファラル採用を実施する背景として、人をしっかり見ていきたいという想いを伝えました。人事部だけでは十分見られないところを、近くで見ている内定者から当社にマッチしそうな人を紹介してほしいと正直に伝え、できるだけ内定者の主体性に任せる運用を心がけました。内定者からは「もう会社の一員として採用の協力をするのか!」という驚きの声もありましたが、皆理解を示して協力してくれました。

 

選考の段階から内定者と対等な関係で信頼関係を築けていたことも自発的な協力関係を醸成できたポイントです。内定が決まってからいきなり採用に協力してもらうのではなく、選考から誠意をもって接し、面接でも時間をかけて丁寧に話を聞いて、信頼関係を深めてきました。その関係性のうえで、リファラル採用のプロジェクトを、相互に協力し合いながら活性化させていけるよう働きかけていったため、自主的に協力してくれる体制ができたのです。

 

【行動:内定者の活動を陰ながら支援】

関西と関東で内定者紹介限定のイベントを開催し、その案内を内定者に協力してもらいました。その際、内定者が当社のことを紹介しやすいように、他の内定者がおすすめしているポイントを共有しています。内定者同士でも当社の魅力を再確認しながら、内定者の行動ハードルを下げていく仕組みを作りました。

 

【実績:採用困難な「データサイエンス×医療」人材にまでリーチ】

40名以上の内定者がイベントを友人・知人に紹介し、そこに50名以上の応募がありました。

 

毎年数名がリファラル採用から入社しています。内定者から同じ研究機関に所属する他大学の日本トップクラスの博士学生をご紹介いただいたエピソードもあります。内定者が違う研究室に優秀な博士人材がいると噂を聞いたらしく、その人に直接連絡して誘ってくれたとのことです。紹介のパターンは複数あり、自分がいいと思った人をピンポイントで紹介してくれる人もいれば、研究室の後輩1人だけ紹介するのは不公平だからと全員に声掛けをしてくれる人もいました。これらの延長で、なかなか出会えない「データサイエンス×医療」という専門性を持つ人材を採用することもできました。

取り組みのポイント

住友ファーマは理系学生の人材獲得競争が激しくなるなか、高い専門性を持った人材を継続的に採用できる仕組みを模索していました。そのなかで、内定者アンケートからリファラル採用の可能性を見出します。取り組みをスタートする際に、エビデンスをもとに自社との親和性を見出した点は注目でしょう。

 

新卒リファラルを実施した結果、ナビサイト経由では採用が難しい層にもきちんとリーチすることができました。また、人事担当者からは「内定者の行動力に驚いた」というコメントもあり、内定者自身も前向きに参画してくれたことがうかがえます。

 

出所:鈴木貴史著『人材獲得競争時代の戦わない採用「リファラル採用」のすべて』(日本能率協会マネジメントセンター)
【図表】リファラル採用の成功事例:住友ファーマ株式会社 出所:鈴木貴史著『人材獲得競争時代の戦わない採用「リファラル採用」のすべて』(日本能率協会マネジメントセンター)より

 

 

鈴木 貴史

株式会社TalentX(旧株式会社MyRefer) 代表取締役CEO

※本連載は、鈴木貴史氏の著書『人材獲得競争時代の戦わない採用「リファラル採用」のすべて』(日本能率協会マネジメントセンター)より一部を抜粋し、再編集したものです。

人材獲得競争時代の戦わない採用「リファラル採用」のすべて

人材獲得競争時代の戦わない採用「リファラル採用」のすべて

鈴木 貴史

日本能率協会マネジメントセンター

時は大人材獲得競争時代。 経営者、人事担当者、現場の責任者など、採用に関わる人は日々熾烈な人材獲得合戦に巻き込まれています。競合他社と戦い、市場と戦い、時間と戦い、費用と戦い、従来の採用手法の延長に安息の地はあ…

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