安心して紹介できる「ルール設計」
リファラル採用の中長期的なゴールが設計できたうえで、次に解説するのは、リファラル採用の制度設計についてです。
全社員にリファラル採用を展開すると、大手企業になればなるほど様々な質問が現場から寄せられます。そのなかには、「ルールが不明確なので声掛けをしづらい」という理由で紹介に至らないケースも多くあります。
制度設計というと、少し堅苦しく感じるかもしれませんが、「社員が安心してリファラル採用ができるようなルールづくり」が必要であるということを念頭に置きましょう。制度設計においては、従業員が自然とおすすめできる環境づくりを目指していきます。その環境整備に必要な項目を3つ紹介します。
①適用社員の範囲
第一段階としては、適用の社員の範囲を定めます。適用社員の範囲とは、正社員、契約社員、アルバイト社員、派遣社員らのどこまでをリクルーターとするかということです。
②禁止事項や運用ルール
禁止事項や運用ルールの策定も必要です。ここでは、「協力パートナー会社からの引き抜きはNG」といったトラブルのもとになりそうなことを想定し、規定しておきます。
③インセンティブ
当社の調査によれば、リファラル採用でインセンティブを導入している企業は85%ほどです。インセンティブの金額は、1〜9万円が47%、10〜29万円が31%となっています。
インセンティブの設定は、採用する職種の難易度や採用単価の相場に合わせて変動する傾向にあります。例えば、エンジニアやコンサルタントの場合には、30万円もの額で設定している企業もあります。一方で、飲食のアルバイトスタッフの場合は1万円程度に設定していることも少なくありません。
自社でほしいポストの採用単価を上回る金額をインセンティブに設定してしまうと、そもそもの採用コスト削減のメリットがないため、傾斜をつけて検討している企業が多いのが実情です。
こうした制度の詳細については、図表1・2のように整理して、社員にも周知していくことが重要です。
インセンティブは「高額なほど効果的」なわけではない
リファラル採用において、インセンティブ目的で友人に声を掛ける社員はどれくらいいると感じますか?
驚かれる方もいるかもしれませんが、インセンティブ目的で友人に声を掛ける社員は2割にも満たないという研究結果があります。
海外でリファラル採用を実施している企業のリクルーター1,600名をランダムに取り上げ、紹介動機について調査した結果によると、「ボーナス収入を得たいから」と回答した社員は11%であり、「友人の力になりたいから」「自社でともに働く人材の選択に自分も関わりたいから」「会社に貢献したいから」のような、その他の理由が多数を占めました。日本においても2020年に当社が同様の調査を実施しましたが、ほぼ同様の結果が得られました。
金銭的ボーナスで動く社員は全体の1割ほどであり、リファラルの動機の5割以上が「友人の力になりたい」というそれ以外の理由なのです。そのため、インセンティブ制度を設計しても社員がアクティブに動くわけでもない、という認識を前提として押さえておきましょう。
なお、インセンティブに関しては、「金額が高すぎると紹介者の質が下がる」という研究結果も出ています。リファラル採用では、社員の友人に対する気遣いと会社への気遣いの両方があるからこそ、マッチングの質が高まります。インセンティブ目当てでの紹介になれば、そのバランスが崩れてしまいます。金額がある一定レベルを超えると、友人と会社への気遣いよりも、自分が得られるメリットのほうが大きくなるということでしょう。
採用コストへの懸念もあるでしょうから、高額にすればするだけそのデメリットもあるということは覚えておいてもよい点です。
とはいえ、紹介してくれた社員に対して、最も感謝のメッセージを伝えやすいのはインセンティブではあります。表彰など他に感謝の思いを伝える方法があればそれでもよいでしょう。ちなみにインセンティブについては、「紹介した友人・知人の入社3ヵ月後に●万円を支給する」という設計が一般的です。ただ企業によっては、入社6ヵ月後のケースもありますし、紹介してくれた時点でギフトを渡す企業もあります。そこは企業の考え方次第といえます。
重要なことは、インセンティブを渡す以上に、インセンティブを含めたストーリーを設計することだといえます。
海外では、金銭ではなく野球チケットを提供した企業も
日本ではまだあまり例はありませんが、海外では、金銭的インセンティブ以外のボーナスを設定してリファラル採用を推進しているケースがあります。
Googleでは、金銭的なインセンティブを2倍にしたものの紹介数が増えず、非金銭的なインセンティブを提供したところリファラル採用が伸びたという事例も報告されています。
また、Salesforceでは金銭ではなく体験価値を重視し、従業員向けのリワードとして野球のチケットを提供しています。
アクセンチュアは、紹介動機の大半が「誰かの役に立ちたいというホスピタリティ」であることに着目し、従業員が紹介をして得られるボーナスの一部を寄付することで、従業員の利他意識に働きかけています。
従業員に現金を提供することが、常に最も効果的なインセンティブになるとは限りません。特にZ世代が職場の大半を占めていく今後の社会においては、インセンティブの背景にあるストーリーこそが重要になります。自社の企業文化に適した、ストーリーに合わせたインセンティブが求められるのです。
このように、海外では金銭以外のリファラルボーナスを設定している事例も出てきているため、今後は日本においてもユニークなインセンティブが登場していくかもしれません。上の表に、金銭以外のリファラルインセンティブの例をご紹介しておきます。
「うちにおいで」のハードルを下げる会食制度
会食制度は、より広くリファラル採用実施したいと考えている企業が導入している制度です。例えば、友人と会食に行く際に、「5千円の会食費が支給される」といった設計をすることです。
リファラル採用を推進していくうえでは、従業員が友人・知人へ声を掛けるハードルを極力下げることが重要です。このハードルを下げる施策として、会食制度は有効なのです。
とはいえ、単なる飲み会の支払いなどの不正利用とならないような制度設計は必要です。
例えば、「〇月〇日に、△△会社のxxさんと会食」という事前申請を必須とし、事前承認を得ることとするのです。
会食後には、リファレンス・コメントとして「xxさんは転職意向があった」「現在は転職する気はないが、半年後には興味持ってくれるかもしれない」「xxさんは〇〇の点で優秀なので▲▲部門におすすめ」といった内容を記入してもらい、それを人事担当者が管理する運用が考えられます。
また、今すぐ転職を考えているわけではないけれど、従業員の優秀な友人・知人のデータベースを蓄積したいという時にも会食制度は有効です。
少数のベンチャー企業などの場合、つながりの数にも限りがあるため、リファラル採用を推進したことで、「転職を検討しそうな友人データが枯渇した」という状態になることも考えられるでしょう。その際に、「現在は転職を考えてないけれど優秀層」の人材データベースは活きてきます。
鈴木 貴史
株式会社TalentX(旧株式会社MyRefer) 代表取締役CEO
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