「含み損」は大規模だが“気にすることではない”
[図表5]に、米銀の株主資本に対する投資有価証券の含み損の割合を示します。今回の危機で幅広く報道された項目です。データは、2008年からのみ公表されていますが、現在の含み損は過去と比べ、大規模であることがわかります。
ただし、これらの投資有価証券の約8割は、米国債や連邦政府機関が発行する債券/MBS(住宅ローン担保証券)であり、
1.利下げが起きれば、価格・収益性ともに回復します。
2.満期まで持てば、満額で償還されます。
3.仮に、今後、預金の取り付けが生じる際は、米連邦準備制度理事会(FRB)による流動性供給(=市中銀行が持つ国債・MBSなどの優良資産を担保にした貸出)によって、「投げ売り」(=売却損の計上=含み損の実現)は回避されます。
ですから、これらの投資有価証券の含み損の多寡を強調してもあまり意味はありません。むしろ、いたずらに家計や投資家を怖がらせてしまいます。
融資の延滞率上昇は避けられない
今後、問題は、通常の景気循環と同様に、「融資の収益性低迷」→「不良債権の拡大」というかたちで生じるとみられます。
[図表6]で、主要な融資項目の延滞率(=30日以上89日以内の返済遅延の割合)を確認しておきます。自動車ローンやクレジットカードの延滞率は上向いています。他方で、住宅ローンや事業融資、商業用不動産の延滞率は低いままです。おそらく今後はすべての項目で延滞率が上昇していくとみられます。
ただし、[図表7]に示すとおり、たとえば、米国家計の借入残高はGDP比で低下しており、家計のバランスシートは健全化しています。他方の企業については、パンデミックで増えた借り入れが増えたものの、最近の名目GDPの拡大がこれを一部相殺しています。
最近の金利上昇によって、企業の返済負担は増えているとみられます。デフォルト率の上昇は循環的に避けられませんが、景気鈍化によって利下げが生じれば、企業の返済負担は和らぎます。