いま米国で「失業保険」の申請件数が増加している
冒頭で、先週公表された経済指標のポイントを拾っておきます。まず、新規失業保険申請件数に少し変化が見られます。
[図表1]に示すとおり、労働市場がタイトだった2018年、2019年および2022年と比べると、このところ、失業保険の新規申請件数が増加しています。今後の労働市場が、最近の銀行や金融市場の状況変化を受けて軟化していくかどうかに注意が必要です。
続いて、2月分の米個人所得・消費支出のデータが公表されました。[図表2]に示すとおり、財のインフレ率は鈍化が続いているものの、サービスのインフレ率は上昇が続いています。
サービスのインフレ率は、米連邦準備制度理事会(FRB)が注目していることもあり、その伸びが止まらない現状は、「今後の利下げを阻む要素」です。
とはいえ、インフレ率にも増してFRBの利下げを阻む要素は、相変わらずの「金融市場の利下げ期待を背景にしたナスダック市場の上昇」です。筆者は引き続き、銀行部門の今後の与信縮小を踏まえると「FRBはまずは政策金利を据え置き、その後まもなく利下げに転じられる」と考えています。
しかしながら、あのナスダック市場の強さを見ていると、「利下げは遠そうだなぁ。大丈夫かなぁ」と感じてしまいます。
さて、今回は、最近のアナリストの煽りやメディアの大げさなヘッドラインに惑わされないよう、米国の銀行に関するデータを眺めたいと考えました。
景気に循環はつきものです。今後、景気は鈍化するとみられますし、銀行の収益は悪化するでしょう。しかし、米銀はいつものとおり、時間をかければ、資本基盤を回復させることが可能です。
米銀のこれまでの動き
1.利益水準と収益性
まず、[図表3]で、米国の商業銀行と貯蓄機関(→直近時点で合計4,706行)の収益性を確認しておきます。
【青色】の最終利益をみると、米銀は、サブプライム危機の影響で、最大3四半期連続で最終赤字を計上します。しかし、直近では、危機直前の1.5倍超の規模に利益を増やしています。
【緑色】のROE(自己資本利益率)をみると、サブプライム危機で利益が低迷し、公的資本を受け入れたこともあり、ROEは(危機後しばらく)幾分低位で推移していました。しかし、利益蓄積と公的資本の返済後、直近ではトランプ減税などを足掛かりに株主還元を拡大したことで、収益性は危機前に近い水準まで回復しています。
2.資本水準
[図表4]で、米銀の資本の水準を確認しておきます。
【青色】の株主資本の金額をみると、米銀は、サブプライム危機で資本を受け入れた公的資本を返済しつつ、資本基盤を拡充してきました。【緑色】の総信用(=投資有価証券と融資・リース)に対する株主資本の金額をみると、規制強化の影響もあり、リスク資産に対して、資本を厚めに積んできたことがわかります。
前項でみた利益増加の背景には、総信用の増加も当然に寄与していますが、そうした信用の増加に沿って、資本基盤も拡大させています。