(※写真はイメージです/PIXTA)

高齢の両親と円満に同居生活を送ってきた長男夫婦ですが、相続の火種を抱えていました。それは離婚して子どもを2人抱える、気の強い妹の存在です。夫婦には子どもがいないため、夫は自分亡き後、妻が妹と相続トラブルになることを懸念しています。対策はあるのでしょうか。相続実務士である曽根惠子氏(株式会社夢相続代表取締役)が、事例をもとに解説します。

両親と長男夫婦は円満な一方で、妹に問題が…

今回の相談者は、50代の会社員の山田さんです。将来の自分の相続について心配があるということで、筆者の事務所を訪れました。

 

山田さんは大学卒業後、勤務先の仕事の関係で地方都市を数年おきに転勤してきましたが、40代で本社に戻ったタイミングで、都内の実家で両親との同居をスタートさせました。大学の同級生だった妻は専業主婦として、同居する高齢の両親の世話や家事全般を引き受けてくれています。

 

「妻は控えめで物静かなタイプで、両親とも折り合ってよくやってくれます。ただ、うちにはちょっと問題がありまして…」

 

山田さんには年の離れた妹がひとりいるのですが、非常に気が強くわがままな性格だといいます。

 

「両親も穏やかで堅実な性格なのですが、なぜか妹は押しの強い強烈なキャラでして…。大学時代、アルバイト先で好きになった男性のもとに押し掛け、子どもができたのですが結婚に至らず、大学を中退して子どもを産んだのです。このことが原因で家を飛び出したのですが、結局戻ってきて、今度は両親に子どもを預けっぱなしにして遊びほうけるようになりました」

 

当然、両親との関係が悪化し、しばらくしてまた家を飛び出した山田さんの妹ですが、出て行った先で知り合った男性と意気投合し、子連れで結婚しました。数年は音沙汰もなく、子どもも生まれたということで、山田さんや両親は安堵していたそうですが、そこから数年後、相手と離婚し、子どもを2人連れてまた自宅に戻ってきました。

 

「妹は感情的になると、もう手が付けられないのです。年取った両親も強く叱れず、まるで腫れもののように扱っていまして…」

 

さすがに面倒を見切れないと思った山田さんの両親は、アパートを借り、なんとか妹に家を出て行ってもらうことに成功。妹はいま、自宅近所のアパートに暮らしながら、ショップ店員として働いているといいます。

懸念されるトラブル、未然に回避する方法は?

「そんなゴタゴタの最中、父親は心労の果てに亡くなったのですが、遺言書を残していませんでした。そのため、私と母と妹の3人で分割協議をしましたが、妹は権利の主張ばかりで、大変でした…」

 

山田さんは母親の老後を見るために自宅建物と土地を相続するつもりでしたが、妹は父親が遺した預貯金3000万円のうち、1/3の1000万円をもらうだけでは納得せず、住んでもいない実家の土地の権利がほしいと主張して譲りませんでした。そのため、山田さん夫婦と高齢母が暮らす自宅の土地は、3人の共有名義となっているとのことです。

 

「じつは、私たち夫婦には子どもがいないのです。もしこのまま、母が亡くなり、私が亡くなったら、私の財産は妹にも相続権が発生すると聞きました。妻の生活を守るためにも、抜かりない対策を立てたいと考えておりまして…」

 

打ち合わせに同席していた提携先の税理士は、山田さんに遺言書の作成を提案しました。

 

山田さんが懸念する通り、山田さんが亡くなった際の相続人は、妻と妹です。おそらく妹の性格では、必ず財産の請求をしてくると考えられます。

 

「〈全財産は妻に相続させる〉という内容で、奥様に遺言書を残されることをお勧めします」

 

山田さんは税理士の提案に納得し、すぐその場で、遺言書の作成を決意。後日無事に、公正証書遺言の作成が完了しました。

 


 

遺 言 書

 

遺言者 山田誠は下記のとおり遺言する。

 

第1条 遺言者は、遺言者の有する下記の不動産のほか預貯金を含む全財産を、遺言者の妻・美香に相続させる。

 

【土地】

所在  ○○区○○一丁目

地番  ○○番○○

地目  宅地

地積  ○○㎡

遺言者の共有持ち分  3分の1

 

【建物】

所在  ○○区○○一丁目

家屋番号  ○○番○○

種類  居宅

構造  木造スレート葺2階建

床面積   1階 ○○㎡ 2階 ○○㎡

 

第2条 遺言者は、本遺言の執行者として、妻・美香を指定する。

 

2 遺言執行者は、不動産の名義変更等、本遺言を執行するために必要な一切の権限を有する。

3 遺言執行者が任務遂行に関して必要と認めたときは、第三者にその任務を行わせることができる。

 

付言事項

妻・美香には、私の両親の面倒を見てもらい、心から感謝している

 

令和〇〇年〇月〇日

 

○○区○○一丁目○○番○○

遺言者 山田 誠

 


高齢の母も「公正証書遺言」の作成を希望

筆者も事務所スタッフも、この件は解決済みと認識していましたが、その後また山田さんから連絡がありました。

 

この件を母親に伝えたところ、母親も自身の財産を山田さんに相続させたいということで、公正証書遺言の作成を希望されているとのことでした。

 

山田さんの母親は、これまで妹には多額の資金援助をしてきたことを付言事項とし、土地の持ち分と現預金の半分を山田さんに相続させるという内容で作成しました。

 

あまりご存じない方も多いのですが、子どもがいない夫婦の相続人は配偶者だけでなく、配偶者の親が存命なら親が、親が存命でなければきょうだい(あるいはおいめい)も含まれます。自分で築いた財産であっても、遺言がないと配偶者にすべてを相続させることができません。

 

ただ、きょうだいには遺留分がないため、遺言書があれば、話し合いをすることなく相続の手続きが完了できます。

 

今回、土地の持ち分を山田さんに相続させるとの遺言となりましたが、妹が保有する土地の権利については、母親の相続時に、売却か買い取りなどで共有を解消しておくことが重要です。

 

 

※登場人物は仮名です。プライバシーに配慮し、実際の相談内容と変えている部分があります。

 

 

曽根 惠子
株式会社夢相続代表取締役
公認不動産コンサルティングマスター
相続対策専門士

 

◆相続対策専門士とは?◆

公益財団法人 不動産流通推進センター(旧 不動産流通近代化センター、retpc.jp) 認定資格。国土交通大臣の登録を受け、不動産コンサルティングを円滑に行うために必要な知識及び技能に関する試験に合格し、宅建取引士・不動産鑑定士・一級建築士の資格を有する者が「公認 不動産コンサルティングマスター」と認定され、そのなかから相続に関する専門コースを修了したものが「相続対策専門士」として認定されます。相続対策専門士は、顧客のニーズを把握し、ワンストップで解決に導くための提案を行います。なお、資格は1年ごとの更新制で、業務を通じて更新要件を満たす必要があります。

 

「相続対策専門士」は問題解決の窓口となり、弁護士、税理士の業務につなげていく役割であり、業法に抵触する職務を担当することはありません。

本記事は、株式会社夢相続のサイト掲載された事例を転載・再編集したものです。

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