デジタル化により浮かび上がったマネジメントの課題
ここまで述べてきたように、流通業、製造業、金融業など既存産業で、プラットフォーマーと伝統的企業とが「競争と提携」をしながら、産業の構造転換(再構築)、新市場の創出が進められている。「ネットとリアル」、「ソフトウェアとハードウェア」が融合する領域が競争の主戦場となっている。
このような競争環境の変化(融合領域での競争)に対応する中で、伝統的企業と新興プラットフォーマーのいずれも、マネジメントの課題に直面している。インターネット第2ラウンドにおいてプラットフォーマーが戦略の柱とする「伝統的企業の効率化支援」に取り組むうえで直面しているのが、「マネジメントの違い」に起因するコンフリクトだ。
プラットフォーマーは、大きく投資をして一気にビジネスを立ち上げることに適した組織マネジメントを実践してきた。一方で、伝統的企業は、流通業における店舗運営や製造業における工場での生産など、日々の改善を通じて品質を高めていく必要がある。
例えば、プラットフォーマーが小売企業に出資をして、「ネットとリアルの融合」をコアとするDXを支援するケースにおいて、実店舗とネット世界では投資成果が生まれるまでに要する時間や、求められるカルチャー、人材・評価基準などが異なる。
さらに、安全性が高く要求されるリアルの領域、ソフトウェアとハードウェアが融合する領域でプラットフォーマーが事業を行うためには、品質の丁寧なつくり込み・改善の実行に適した継続性のある組織マネジメントが必要となる。プラットフォーマーは、スピードを重視してつくってきた組織マネジメントとのギャップに直面しているのだ。
一方、伝統的企業のプラットフォーム戦略では、先行投資によりプラットフォームの両サイドの規模を確保して「ネットワーク効果」を働かせる、顧客と対話をしながらきめ細かい修正をスピーディにやり続けるといった組織行動をとれるか課題となっている。
前述した工商銀行など大手銀行のプラットフォーム戦略では、市場で先行するアリババTMALLや京東に対して、顧客がより魅力を感じる特徴を打ち出すマネジメントが実行できなかったために、市場で存在感を示せずにいる。
プラットフォーマーと伝統的企業とのマネジメントの違いについて、双方からのヒアリングに基づいて図表1に整理した(※伝統的企業は、銀行業界関係者へのヒアリングに基づく)。
デジタル化が深化し、ネットとリアル、ソフトウェアとハードウェアの融合が進む中で、プラットフォーム・モデルを活かしたスケール化、それを支えるスピードと、製品・サービスの品質をつくり込む現場力、組織の継続性との「両立」が経営課題になっている。
中国の先進企業はデジタル化時代に求められる経営に向けて変革を進めるために、「権威主義的なマネジメント」と「プラットフォーム志向」を活用している。
以上述べてきた中国デジタル化の進化プロセスと経営課題について、図表2にまとめる。
※本記事は、岡野寿彦氏の著書『中国的経営イン・デジタル 中国企業の強さと弱さ』(日経BP 日本経済新聞出版)から一部を抜粋し、幻冬舎ゴールドオンライン編集部が本文を一部改変しております。
岡野 寿彦
NTTデータ経営研究所グローバルビジネス推進センター
シニアスペシャリスト
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