(※画像はイメージです/PIXTA)

世界に名を轟かし、その影響力に米国政府が安全保障上のリスクを警戒するまで浸透したバイトダンスのTikTok。バイトダンスは、2012年の創業から時価総額世界第1位のユニコーン企業に成長し(2022年時点)、まさに飛ぶ鳥を落とす勢いです。バイトダンスのTikTokは、一体なぜ世界の若者にこんなにも受け入れられたのでしょうか。キーワードは「中国流イノベーション」にあると、NTTデータ経営研究所グローバルビジネス推進センターのシニアスペシャリスト岡野寿彦氏はいいます。本記事では、2000年代からの中国企業の変遷とともに、バイトダンスが急速に海外進出を遂げた理由について解説します。

「レコメンド広告」で成功し、海外展開を進めるTikTok

第一世代プラットフォーマーであるアリババ、テンセントが海外事業展開においては進出先国の地元企業との間で必ずしも競争優位を築けていない中で、米国、日本を含む世界の市場で競争力を持つプラットフォーマーとしてバイトダンスが登場したことは、デジタル中国の新たな段階への進化と位置付けて分析するべきである。

 

バイトダンス(2012年創業)は、利用者ごとの関心をとらえコンテンツをレコメンドするAIアルゴリズムの開発に集中投資をし、その高い精度を活かせるコンテンツ・プラットフォームの展開により、時価総額世界第1位のユニコーン企業に成長している。

 

レコメンドとは、ユーザーの購入履歴などの行動、好みが似た他の利用者の情報を分析し、適切な商品やサービスを絞り込んで推薦することにより売り上げを高める手法である。

 

(※画像はイメージです/PIXTA)
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米国政府もその影響力を警戒する「TikTok(ティックトック)」(動画投稿アプリ)は、検索からレコメンドへ、テキストから動画へという市場トレンドをとらえ、レコメンド精度と動画コンテンツの魅力で広告コンバージョンを上げるモデルを磨いてきた。

 

動画が投稿されるとランダムに選ばれた少数のユーザーに配信され、“繰り返し見る”、“早送りする”などの反応を機械学習することで、その動画コンテンツに最適のユーザーに届けられる。

 

消費者は好みのコンテンツだけを見せられることで、連続して視聴して可処分時間を消費することになる。同時に、コンテンツ作成の敷居を低くして消費者をクリエイターとして呼び込み、承認欲求を満たす仕組みによって、多様なコンテンツが開発される好循環を回している。

 

コンテンツ制作者のフォロワー数に関わりなくそのコンテンツに適切なユーザーに届けられ、優良なコンテンツであれば評価されやすい設計に加えて、育成プログラムも活用して「儲けさせる」ことで、クリエイターのすそ野を広げているのだ。

 

そして、オリジナルコンテンツと広告(プロが制作)がシームレスに溶け込み、消費者が自然に広告を視聴して購買につなげる仕組みにより、競合との間で独特のポジションを獲得している。

 

バイトダンスは、中国市場の激しい競争で磨かれた技術、マネタイズのモデルを武器として2017年からTikTokの海外展開を進めている。「プロダクトはグローバルに、コンテンツはローカルに」をコンセプトとして、進出先の国・地域に適したローカライズにも積極的に取り組んでいる。

 

中国色を消すことに努め、顧客データの管理に関する米国での疑念に対してはデータの保管場所を米国オラクル社に迅速に切り替えるなど、柔軟な対応により浸透を図っている。世界のアプリケーション別ダウンロード数で、TikTokは2020年、21年の2年連続で世界首位となった(注4)。

 

一方で、強力なレコメンドアルゴリズム技術によって個人の感情や嗜好を操るのに用いられないかという懸念が、中国政府の関与に関する疑念と相まって、米国などで国家安全保障上のリスクとして警戒されるに至っている。バイトダンスの世界市場での躍進が、中国の企業家に「世界で戦える」実例を示したことの意味を過小評価するべきではない。

 

(注4)米国の分析調査企業App Annie「モバイル市場年鑑 2022」に基づく。2021年度ダウンロード数の2位以下は、Instagram、Facebook、WhatsApp、Telegram、Snapchat、Facebook Messenger、Zoom、CapCut、Spotify。

 

ネット飽和時代の競争軸は「顧客の時間占有」と「OS開発」

スマートフォンの普及を契機に2010年代から進んだ「エコシステムにより顧客への提供価値を高めるビジネスモデル開発」は、ネットが飽和する中で「顧客の限られた時間の占有」が競争軸となり、さらにIoT(Internet of Things)時代を見据えた標準OSをめぐる開発競争に進展している。

 

アリババ、テンセントの2大巨頭をリーダーとするエコシステム間で、パートナー企業の囲い込みや排他的なサービスを含む競争が繰り広げられる中で、新たにバイトダンスとファーウェイがエコシステム間の競争に加わろうとしている。

 

バイトダンスはモバイル決済会社に出資をし、若者を中心とする消費者との強い接点とレコメンドアルゴリズムの精度を武器にサービスを拡張しようとしている。

 

(※画像はイメージです/PIXTA)
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ファーウェイは、米国の制裁に対応して収益源の多様化が急務となる中、スマートフォンの顧客基盤を活かして、アップルのiPhoneと同様の多様なアプリケーション、コンテンツが開発・提供されるエコシステムの構築を進めている。さらに、独自OS「鴻蒙(ハーモニー)」をIoTの基盤として成長させる戦略をとり、その橋頭堡として自動運転を見据えた自動車メーカー向けプラットフォームの開発展開に注力している。

 

アリババも、「テクノロジー企業」として技術開発成果をクラウドから提供して、パートナー企業のDX/変革を支援するポジションに立つことを明確にしている。そして、「AliOS」を消費者向け(2C)を起点に企業向け(2B)までカバーする次世代OSとして育て、データ(消費者ニーズ)駆動による既存産業再構築のシステム基盤として強化しようとしている。

 

エコシステム間での「消費者の生活シーンを囲い込む競争」が深まって、「顧客の時間を占有」するビジネスモデルの開発が競われているが、さらに、IoT時代を見据えたOSの開発競争を通じて、エコシステム間の競争の主戦場は2Bにシフトしようとしているのである。

 

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※本連載は、岡野寿彦氏の著書『中国的経営イン・デジタル 中国企業の強さと弱さ』(日経BP 日本経済新聞出版)より一部を抜粋し、再編集したものです。

中国的経営イン・デジタル 中国企業の強さと弱さ

中国的経営イン・デジタル 中国企業の強さと弱さ

岡野 寿彦

日経BP 日本経済新聞出版

中国的経営の原理とは? 日本的経営とどう違うのか? 先進IT企業のケーススタディを通して、中国企業の「型」を解き明かし、日本企業にとっての教訓をさぐる。 なぜ中国企業は「両利きの経営」を目指すのか?  ●政府…

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