アリババの相互監視型医療共済「相互宝」が登場
デジタル化は中国社会にどのような変容をもたらしたのか? 筆者は、
(1)「低い社会信用などの “困りごと”の改善、経済の構造改革」と「監視社会化」とがともに進展(両面をバランスよく見る必要)
(2)個人の意思決定において「テクノロジーを信頼」する傾向の強まり
(3)商品開発における消費者の主体性拡大
の3点に着目している。
本記事では(2)と(3)の代表的な事例であるアント・グループの相互補助・監視型保険「相互宝」についてケース分析を行う。日本と比較して、社会保険制度が整っていないとされる中国の課題を埋める形で一気に普及し、2021年12月時点で7500万人の加入者を抱えるまで成長した商品だが、2022年1月をもって運用を終了するに至った。
今後日本においても「自助」の必要性が高まる中で、デジタル技術を活用してどのような解決策をとり得るのか、どのような課題が生じるのかを考える参考としたい。
「相互宝」の仕組み
芝麻信用(アント・グループが提供する信用スコアリング・サービス)のスコア600点以上の人を対象とする相互監視型医療共済である。加入時の保険金負担は不要で、ガンや心筋梗塞といった重大疾患時には30~39歳:上限30万元、40~59歳:上限10万元が保障される。
患者がオンライン上にアップした申請書類は、個人情報に配慮したかたちですべてのユーザーが閲覧でき、第三者機関の審査により保障金が支払われる。各期に認定された保障金の合計を参加者全員で割る仕組みで、アント・グループは8%の手数料のみを徴収する。
P2P保険(友人同士や同じリスクに対する保険に興味ある人たちでプールをつくり保険料の拠出を行う、保険をシェアする仕組み)はすでに存在するが、これに信用スコアを絡めて「相互監視しつつ皆で支え合う」ことがミソである。
芝麻信用で一定以上のスコアの人だけを対象にするので、ただ乗り志向の人は入れない。保障金の請求が加入者全体の負担費用に影響するため、案件の調査、紛争の解決など、透明性、公平性を保つことが重要になる。
信用スコアに基づく属性の近い集団が集まるからこそ、不正リスク対策のコストを抑えて運用を行える。また、社会行動が良い人はもともとリスクが少なく、さらに相互監視の中で健康な生活を送るように圧力がかかるため、検査による早期発見が増えて、結果として低い保険コストになるという循環を目論んでいる。
ブロックチェーンを利用し、契約、分担金の設定、支払いといった一連のプロセスの信頼性を担保している。
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