デジタル化が進む前にあった「中国企業の経営課題」
中国デジタル化の進化プロセスを俯瞰的にとらえて、「権威主義的なマネジメント」と「プラットフォーム志向」がどのようなインパクトを及ぼしているのか分析する。
伝統的な流通業、製造業、金融業が産業の中心であった時代においては、「権威主義的なマネジメント」は工場やサービス拠点の「現場力」が育たないことの要因に、「プラットフォーム志向」はオリジナルな製品を開発して品質を高めていく姿勢が弱いことの要因となり、中国製造業に「弱さ」をもたらしていた。流通業、金融業においても、低い効率とサービスレベルに加えて、実体経済のニーズに対応できないことが課題となっていた。
以下、2000年代から中国デジタル化が進む中で、中国企業の経営がどのように変化したのか見ていきたい。
2000年代:「プラットフォーム志向」の企業が台頭
中国企業人の「プラットフォーム志向」が事業としてブレイクスルーしたのが、2000年代からのBAT(百度、アリババ集団(アリババ)、騰訊(テンセント))のプラットフォームビジネスだった。
アリババは「電子商取引(EC)」、テンセントは「コミュニケーション」、百度は「検索」という業務領域にプラットフォームを構築し、中国の経済成長の中で次第に豊かになる消費者を「集客」して規模を確保した。
中国社会の困りごと(ペインポイント)にフォーカスを当てて、インターネット技術を活用してペインポイントを解決することで、消費者の支持を得て急速に成長した。例えば、ECの課題であった「安心な決済」という困りごとを解決する目的でアリババが2004年にサービスを始めた「支付宝(アリペイ)」は、中国のネットビジネスを大きく変えた。
同社はアリペイの支払い機能を通じて顧客をロックインし、そこから生まれたデータに基づき独自の「信用体系」を構築することで経済取引を活性化した。さらに、ビジネス機会に恵まれなかった中小企業にネット取引というインフラを提供して成長の糧をもたらした。
「デジタル中国」の急成長を支えたのは、トップダウンの意思決定
デジタル中国の急成長の要因として、インターネットと「権威主義的なマネジメント」、「プラットフォーム志向」との「相性」の良さを見逃せない。
プラットフォーム企業が顧客やパートナー企業の規模を確保して「ネットワーク効果」を働かせるためには、タイミングを見定めた大胆な投資判断と実行スピードが重要だが、BATは、「権威主義的なマネジメント」の特徴であるトップダウンの意思決定によってスピードを確保した。
強いリーダーシップのもとで、リソース(人材、最新技術、資金、リレーション)をフルに動員して、クリティカルマス(critical mass)(注1)を超えるまでの競争に生き残ることができたのだ。
また、米国でGAFAを中心に開発されたプラットフォームビジネスを模倣しながら、もともと備わっていた「プラットフォーム志向」を発揮して、中国の事情に適合したビジネスモデルを開発し、実験的なアプローチで社会実装を進めた(注2)。
プラットフォーマーのビジネス展開によって既存産業に影響が生じたが、経営トップが自社のサービスが公益に資するというナラティブ(物語)を語ることで、消費者、規制当局からの支持を得ながらプラットフォームを進化させていった。
(注1) ある商品やサービスが、爆発的に普及するために最小限必要とされる市場普及率。商品やサービスの普及率が一気に跳ね上がる分岐点となる。
(注2)中国テック企業が米国などのビジネスモデルを模倣しながら好循環が働くビジネスモデルを構築していった過程。
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