(写真はイメージです/PIXTA)

対象株式が全株式、納税猶予割合が100%になる事業承継税制の特例措置。ニッセイ基礎研究所の小原一隆氏が、現行の法人版事業承継税制の特例措置の特徴と、今後のあるべき方向性について考察していきます。

6―おわりに

事業承継税制の特別措置について見てきた。高齢化が進む中小企業の経営者の代替わりを促進するためのインセンティブとして導入されたものである。

 

中小企業の優遇は、税の公平性の観点から不適切ではないかという指摘は、多くの文献で触れられている。しかしながら一方で、中小企業の存在の意義(雇用確保、技術等の伝承、他)は極めて大きく、また、大企業と比べて経営資源、組織力、情報収集力等の点で弱い存在であるのが一般的であり、垂直的公平性の観点からも、優遇措置があって然るべきだろう。

 

制度のシンプルさの観点からは、猶予の上一定条件下で免除とする現行の仕組みよりも、諸外国のように課税財産からの控除とすることが望ましいという税理士連合会の指摘は首肯させるものがある*17。しかし、政策目的と税の公平性とのせめぎ合いや、課税逃れの企てを抑制する観点からは、現行の枠組みを受容せざるを得ないと考える。ただし、実務上の煩雑さは極力見直し、当制度を利用したいと思う経営者を増やすことが肝要である。

 

当然、都道府県知事に計画が提出されたところで適切に審査が行われ、また事後のモニタリングも、事業承継税制の政策目的に合致しているのかという点に鑑み、厳密になされることが期待される。

 

後継者難による廃業の結果雇用が消失してしまうことを避けるための優遇措置であるにもかかわらず、雇用維持要件が事実上なくなっていることには矛盾を感じる。確かに、やむを得ない事情でも雇用要件未達になると利子付で一括納税という一般措置の建付けは苛烈である。それが事業承継税制の利用を躊躇させた一因であったことによる緩和措置であり、そのインパクトは相応にあると考えられる*17。よって、もう少しバランスが取れた規定を検討してはどうか。

 

特例承認計画の提出期限は2024年の3月末までである。前述したように、新型コロナ禍や物価高により腰を据えて承継計画を策定できていない経営者も多くいると思われることから、提出期限の再度の延長も検討に値する。また、特例措置の適用を受けても、時限措置である当制度は将来なくなってしまう。中小企業の事業承継問題は、時限措置終了時に劇的に解決できているとは思えない。加えて、中小企業の相対的な担税力の弱さは将来も同様であると考えるのが妥当である。一定の要件を満たせば、将来にわたり特例措置を使い続けることができるような制度の検討もすべきだろう。

 

*17:日本税理士会連合会国際税務情報研究会「事業承継税制に関する国際比較に基づく研究」2020年1月

*18:従業員5人の企業だと、2人が退職するだけで要件未達となる

 

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※本記事記載のデータは各種の情報源からニッセイ基礎研究所が入手・加工したものであり、その正確性と安全性を保証するものではありません。また、本記事は情報提供が目的であり、記載の意見や予測は、いかなる契約の締結や解約を勧誘するものではありません。
※本記事は、ニッセイ基礎研究所が2023年3月14日に公開したレポートを転載したものです。

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