(写真はイメージです/PIXTA)

対象株式が全株式、納税猶予割合が100%になる事業承継税制の特例措置。ニッセイ基礎研究所の小原一隆氏が、現行の法人版事業承継税制の特例措置の特徴と、今後のあるべき方向性について考察していきます。

4―諸外国との差異

前節で、日本の事業承継税制は、基本的には猶予であり、税を支払うタイミングを繰り延べているに過ぎないということを述べた。では、諸外国の事業承継税制は、どのようになっているだろうか。【図6】は、主要国の事業承継税制を比較したものである。米英独韓を見ると、いずれも税の控除となっている点が日本と最も異なる。更には、手続面についても、米英独は特別煩雑な手続はなく、煩雑な事後モニタリングも存在しない。韓国は提出書類がやや増え、10年間の事後管理が必要とされている。しかし日本は、計画を策定の上都道府県知事に提出した後も税務署に対して3年に1回、継続届け出を行う必要がある。

 

【図6】
【図6】

 

そもそも日本では諸外国と比べて相続税の位置づけがかなり異なる。日本の場合は相続税の課税割合(相続税が課された者/死亡者)の割合は約8%、税収に占める割合も約3%と、諸外国と比べて高い水準にある。また基礎控除の水準も相対的に低い*13。日本を除く諸外国では相続税は富裕層の中でも上位の層が対象となっているのに対し、日本の場合はより中間層も課税対象となり、税収面でも相応に重要な役割を果たしているといえよう。

 

税理士連合会は、諸外国との比較の中で、税務プロセスをもっと簡素にすべきであり、課税財産からの控除制度に転換し、後継者が長期間にわたり納税猶予取り消しリスクに晒されることや事後管理の負担を軽減すべきとしている。また、特別措置のように対象を100%とせずとも、適切な水準の控除限度額を設定すれば国の税収確保にも資するとしている。適切に納税資金を準備し、不安定な状況や事務の煩雑さを避けた方が良いと考える後継者も出てくるのではないかと指摘する。

 

*13:英国の基礎控除は日本と同様の水準だが、別途生前贈与を活用することで、実質的な基礎控除額は高水準にある。

5―中小企業に対する税務面での優遇措置への批判

事業承継税制は、従前から指摘されてきた問題点の改善策として、特例的に税の優遇措置を行っているものであるが、そもそもその対象となる中小企業に対して税制面で優遇*14すること自体について批判的な意見も存在する。

 

自ら起業する者と、事業を承継する者との機会均等の観点や、事業用資産を持たない給与所得者の相続税負担とのバランスの観点等から問題であり、「すべての財産を公平に課税する」という基本原則に照らして吟味する必要があるという旨の指摘が政府税制調査会の過去の答申*15で出された。資産家の子女が税の優遇を得て事業承継を受けることは、起業意欲があるが親の財産の後ろ盾がない若者や、勤め人にとって果たして納得がいくのか、ということであろう。

 

また、相続税は、相続財産の一部を国に納め、広く社会の為に使うことで資産の再配分機能を有し、また相続財産が大きいほど相続税額は大きくなるため、生まれた家庭の経済状況による差を縮小させ、格差の固定化を防止する機能があるとされ、この点からも批判がなされることがある。

 

一口に中小企業といっても、非常に多様性があり、収支・財務面で盤石な企業も存在するため、十把一絡げに扱っていいのかという視点もある。

 

しかし、それでも、後継者難による中小企業の廃業は、日本の経済社会に対して悪影響を及ぼすことから、優遇税制を駆使して事業承継を円滑化したいという政策目的は、公益性を有すことから、妥当なものであると考える。

 

*15:他には、法人税関連、設備投資促進、研究開発関連、消費税関連等、広範にわたる。

*16:税制調査会「平成14年度の税制改正に関する答申」2001年12月14日

 

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次ページ6―おわりに

※本記事記載のデータは各種の情報源からニッセイ基礎研究所が入手・加工したものであり、その正確性と安全性を保証するものではありません。また、本記事は情報提供が目的であり、記載の意見や予測は、いかなる契約の締結や解約を勧誘するものではありません。
※本記事は、ニッセイ基礎研究所が2023年3月14日に公開したレポートを転載したものです。

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