(写真はイメージです/PIXTA)

対象株式が全株式、納税猶予割合が100%になる事業承継税制の特例措置。ニッセイ基礎研究所の小原一隆氏が、現行の法人版事業承継税制の特例措置の特徴と、今後のあるべき方向性について考察していきます。

2―事業承継税制とは

事業承継税制は、中小企業の経営者の高齢化と後継者難を問題意識として、2008(平成20年)に「中小企業における経営の承継の円滑化に関する法律」に基づき、翌年の税制改正で創設された。その後、累次の改正を経て、2018(平成30)年に特例措置が導入され、10年間の時限措置として、適用要件が大きく緩和された(図3)

 

【図3】
【図3】

 

簡単にいうと、中小企業の先代経営者から、後継者がその会社の非上場株式等を相続または贈与により取得した場合には、一定の要件を満たせばその非上場株式等に係る相続税・贈与税の納税が猶予・免除*6される制度である。本税制の適用にあたっては、中小企業は「中小企業の経営の承継の円滑化に関する法律」に基づく、都道府県知事の認定を受ける必要がある。

 

2018年の主な改正点は、(1)対象株式上限数の撤廃、(2)雇用要件の抜本的見直し、(3)対象者の拡大、(4)経営環境変化に応じた減免の創設である。

 

*6:例えば、贈与者(先代経営者)より先に受贈者(2代目)が亡くなった場合、2代目が受けていた贈与税猶予額が免除され、相続税課税に切り替わる。要件を満たせば2027年3月31日までの相続であれば特例措置を、同年4月1日以降であれば一般措置を適用可能となる。

(1)対象株式上限数の撤廃

改正前の一般措置では、承継される非上場株式等の株数の3分の2までが納税猶予の対象で、その内贈与税は100%、相続税は80%を上限として猶予の対象となっていた。換言すると対象非上場株式の2/3×80%=約53%が相続税の猶予対象となっていたということになる。これに対して2018年の特例措置では承継される全ての非上場株式等が猶予の対象となり、相続税でも上限が100%に引き上げられたため、事業承継時に贈与税や相続税がかからなくなった。

(2)雇用要件の抜本的見直し

改正前の一般措置では、事業承継後5年間平均で雇用の*8割を維持することが事業承継税制を受ける要件であり、未達の場合は、猶予された税の全額を利息付で納付しなければならなかった。2018年の特例措置では、この雇用維持要件が事実上撤廃され、要件未達でも納税猶予の継続が可能となった。ただし、その場合であっても、理由の報告*7や、認定支援機関8による指導助言が必要となる。

 

*7:特例承継計画に関する報告書において、雇用が5年平均80%を下回った際の理由として、(1)雇用人数減少の主たる理由が高齢化による退職であること、(2)採用活動を行ったが採用に至らなかったこと、(3)設備投資等による生産性向上、(4)経営状況悪化で雇用が継続できなかった、等が例示されている

*8:税理士、公認会計士、弁護士、社会保険労務士、金融機関等

(3)後継者の拡大

改正前の一般措置では、(複数の株主から)後継者1名への承継のみが事業承継税制を受ける要件であったが、2018年の特例措置により、(複数の株主から)複数の後継者(最大3名、議決権割合10%以上、上位3位までの同族関係者)でも可能となった。

(4)経営環境変化に応じた減免の創設

改正前の一般措置では、事業を引き継いだ後継者が、自主廃業や事業売却を行った場合、たとえその時点で株価が下落していても、事業承継当時の株価を基に納税額が算出されていた。2018年の特例措置では、経営環境の悪化を示す一定要件が満たされた場合、廃業時や売却時のより会社の実態に近い株価を反映した評価額や売却額を基に納税額が算出されることになった。

 

以上の通り、改正前の一般措置は、要件が厳格であったこともあり、その申請件数も特例措置導入より前では、年間400件程度に過ぎなかったが*9、特例措置の導入後は、年3,000件前後へ劇的に増加した(図4)。要件緩和で使い勝手が向上したことにより、利用が進んだものと推察される。

 

【図4】
【図4】

 

*9:中小企業庁「事業承継・創業政策について」中小企業政策審議会基本問題小委員会(第15回)資料。

 

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※本記事記載のデータは各種の情報源からニッセイ基礎研究所が入手・加工したものであり、その正確性と安全性を保証するものではありません。また、本記事は情報提供が目的であり、記載の意見や予測は、いかなる契約の締結や解約を勧誘するものではありません。
※本記事は、ニッセイ基礎研究所が2023年3月14日に公開したレポートを転載したものです。

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