(※写真はイメージです/PIXTA)

資産家の父が亡くなり、相続が発生。父は、事業を受け継ぐ二男夫婦に有利な遺言書を残していましたが、離れて暮らすきょうだいがその無効を訴えます。泥沼裁判となるかと思いきや、高齢の父が意外な証拠を残していて…。相続実務士である曽根惠子氏(株式会社夢相続代表取締役)が、実際に寄せられた相談内容をもとに、生前対策について解説します。

地元に残った二男、都心に出ていった長男・三男

今回の相談者は、60代の林さんです。亡くなった父親が遺した遺言書を巡り、きょうだいでトラブルになり困っていると、筆者の事務所を訪れました。

 

林さんは二男ですが、両親と同居してきました。母親が60代で他界したあとは、80代の父親が亡くなるまで、林さんとその妻、子どもたちが協力して、家族で介護を行ってきました。

 

林さんの父親は地元の地主の家系の出身で、多くの不動産を保有し、駐車場やガソリンスタンドなどを経営してきました。税務などは地元の税理士に依頼しています。

 

林さんには兄と弟がいますが、いずれも家業に興味がなく、大学卒業後は年に1回顔を見せる程度でした。両親が倒れたたり、要介護状態になってからは、ますます寄り付かなくなったそうです。

 

「本当は長男の兄が家を継ぐべきなのでしょうが、兄も弟も東京の大手企業に就職して、そのまま結婚して、家も都内に購入しています。今後、地元に帰ってくることはないでしょう」

 

東京の大学に進学したものの、母親に乞われて地元企業に就職した林さんは、サラリーマンとして働きながら父親の仕事を手伝い、代替わりして家業を引き受けたという状況です。

二男夫婦に感謝していた父、公正証書遺言を準備

「母が先に亡くなり、父は身の回りの面倒を見ていた私の妻と養子縁組しました。相続を心配した父が税理士の先生に相談したところ、〈その状況なら、二男のお嫁さんにも相続の権利があったほうがいい〉と勧められたと聞いています」

 

林さんの父親は、顔を見せない長男や三男より、一緒に暮らして面倒を見てくれる二男のお嫁さんを信頼したのでしょう。預金通帳や実印も、父親自ら林さんの妻に頼み、管理してもらっていたそうです。

 

「亡くなった母の財産は数百万円の預金だけで、相続税の納付は不要でした。父がすべてを相続しましたが、そのときは誰も文句を言わなかったのです。ですが、父が70代後半になって、ガソリンスタンドや駐車場経営の仕事を私にすべて任せるようになると、兄と弟は父の財産について探りを入れるようになったのです」

 

父親はそんな長男と三男に激怒し、2人を前に〈お前たちに渡す財産はない〉と怒鳴りつけたこともあったといいます。

 

「税理士の先生は公正証書遺言の作成を勧め、父は〈二男夫婦に財産を等分に相続させ、長男、三男には遺留分相当の現金を相続させる〉という内容で遺言書を残していました」

長男と三男、父親の認知症を主張し「遺言は無効」と…

「父は、遺言の執行人に税理士の先生を指定していました。そのため、四十九日の法要のあと、税理士の先生が来てくださり、その話になったのですが、兄と弟は「そんなの聞いていない〉と激怒してしまいまして…」

 

その後、長男と三男より、公正証書遺言の無効の裁判が起こされ、林さんに弁護士が必要となったということで、相談を受けた筆者は、業務提携先の弁護士を紹介したのです。

 

長男と三男は「遺言書作成当時、父親は認知症を発症していた」「意思能力が低下し、遺言書が作れる状態ではなかったため、遺言書は無効だ」と主張しました。

 

父親は加齢により次第に動けなくなり、要介護3の認定は受けたものの、林さんの妻やヘルパーの介護を受けながら、ずっと自宅で生活をしていたそうです。

 

しかし、公正証書遺言を作成したときにも本人の意思は明確であり、なんの問題もありませんでした。そもそも公正証書遺言は、公証人が本人の意思確認をし、本人が署名捺印していますので、偽造の疑いもなく、法的にも問題なく、有効として成立するものです。

 

仮に公正証書遺言が無効だとされる場合、「本人の意思能力が認知症だった」という証拠に基づき、裁判所が判断することになります。

要介護認定=認知症ではない

認知症は、脳の病気や障害など様々な原因により認知機能が低下し、日常生活全般に支障が出てくる状態をいいます。初期は、加齢による単なる物忘れに見えることが多いのですが、仕事や家事など普段やってきたことでミスが増える、お金の勘定ができなくなる、慣れた道で迷う、話が通じなくなる、憂うつ・不安になる、気力がなくなる、現実にはないものが見える、妄想があるなどの症状が現れ、意思確認ができなくなります。

 

しかし、要介護は生活するために介護が必要になるレベルの認定をすることであり、認知症の判定ではありません。

「父が、遺言作成のシーンを録画しておけと…」

遺言書は父親が顧問税理士とその事務所スタッフを証人として、最寄りの公証役場に出向いて作成したものですが、林さん夫妻は父親を車に乗せ、公証役場まで同行しました。

 

「じつは、父の指示で遺言書作成の様子を録画していたんです」

 

公証人や証人には、父親から作成風景を動画で残したい旨を伝えて許可を得ており、随所で写真も撮って残していたということでした。

 

林さんの弁護士はこれらを証拠として裁判所に提出し、さらには作成した公証人に証人喚問に協力してもらい「作成時に違和感はなく、問題なく遺言書の作成ができた」と証言してもらったといいます。

 

こうした証拠や証言により、林さんは勝訴。父親の公正証書遺言は無効とはならず、父親の意思通りに遺言は執行されたのです。

 

林さん夫妻は「弁護士先生や税理士先生、そのほかの皆さんがお力を貸してくださったおかげです」と、最後まで遠慮がちでしたが、父や税理士のアドバイスを受け、今回の遺言書作成の動画だけでなく、何事も几帳面に記録していたことから、その積み重ねが奏功したケースだといえるでしょう。

 

日ごろから記録やメモを残しておくこと、また、遺言書作成時には、本人の意思が明確だという証拠を残すため、動画や写真を撮ることは有益です。

 

公正証書遺言を作成していても、訴えを起こされれば、状況によっては家庭裁判所が無効の判決を下すこともあります。近年では、長生きをする方も増え、認知症は身近な問題となっています。相続の場面において、遺言書のトラブルを防ぐには「認知症ではなく、本人の意思で遺言書を作成した」という証拠・記録を残すことも、大切な防衛策となるのです。

 

 

※登場人物は仮名です。プライバシーに配慮し、実際の相談内容と変えている部分があります。

 

 

曽根 惠子
株式会社夢相続代表取締役
公認不動産コンサルティングマスター
相続対策専門士

 

◆相続対策専門士とは?◆

公益財団法人 不動産流通推進センター(旧 不動産流通近代化センター、retpc.jp) 認定資格。国土交通大臣の登録を受け、不動産コンサルティングを円滑に行うために必要な知識及び技能に関する試験に合格し、宅建取引士・不動産鑑定士・一級建築士の資格を有する者が「公認 不動産コンサルティングマスター」と認定され、そのなかから相続に関する専門コースを修了したものが「相続対策専門士」として認定されます。相続対策専門士は、顧客のニーズを把握し、ワンストップで解決に導くための提案を行います。なお、資格は1年ごとの更新制で、業務を通じて更新要件を満たす必要があります。

 

「相続対策専門士」は問題解決の窓口となり、弁護士、税理士の業務につなげていく役割であり、業法に抵触する職務を担当することはありません。

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    本記事は、株式会社夢相続のサイト掲載された事例を転載・再編集したものです。

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