(※写真はイメージです/PIXTA)

公務員として定年まで共働きだった夫婦は、築いた資産を3人の子と、その孫たちに着実に分け隔てなく承継させたいと考えていますが、一方で、口にできない「ある思い」がありました。それは「子どもの配偶者に、好き勝手させたくない」ということ――。対策はあるのでしょうか? 相続実務士である曽根惠子氏(株式会社夢相続代表取締役)が、実際に寄せられた相談内容をもとに、生前対策について解説します。

共働きだった元公務員夫婦、2億円の資産を築いたが…

今回の相談者は、70代の安藤さん夫妻です。3人の娘たちへの財産の残し方について相談したいと、筆者の事務所を訪れました。

 

安藤さん夫妻はともに公務員で、この世代の方には珍しく、定年まで共働きでした。そのため、かなりの財産を築いています。

 

所有する不動産は、広い戸建ての自宅のほか、6世帯のアパート、10世帯のアパート、いずれも夫妻の共有名義です。それ以外の預貯金、有価証券などを合わせると、夫妻それぞれがほぼ1億円ずつ資産を保有しており、合計約2億円となっています。

 

「私たち夫婦には、娘が3人いて、全員結婚していて、孫もいます。どうやって相続させたらいいのか…」

 

安藤さん夫妻の場合は双方に財産があるため、いまから節税対策を考え、評価を減らすことも含めた節税案の検討が必要だといえます。筆者と提携先の税理士は、相続税も気になることから、一次相続と二次相続の相続税を比較して、分割案を検討しておく必要がある旨、アドバイスしました。

「娘家族とは、関係も円満です。でも…」

しかし、なかなか話がスムーズに進みません。

 

じつは、安藤さん夫妻のいちばんの不安は、別のところにありました。安藤さん夫婦の子どもたちは、いずれも近居であり、日頃から互いに行き来しており、関係も円満です。

 

「娘たちとも、娘婿たちとも、関係は良好で本当に幸せです。でも…。私たちの財産を相続させたとして、婿より娘が先に亡くなることがあるかもしれないじゃないですか。そうしたら、娘に継がせた財産が、孫に渡らず、婿に好き勝手されるかもしれませんよね?」

 

娘から孫へ資産が着実にわたるよう、相続対策を進めたいと考えているとのことでした。

 

また、2棟のアパートは建築からかなり年数が経っており、これから修繕費がかかります。空室もあるため、これから20年、30年を見据えた不動産の維持の方法についても、検討すべき時期にきています。

 

「考えたのですが、長女が代表で不動産を管理し、家賃を3人で分けていくのはどうでしょう? それって、理想の形だと思います。それ以外にも、家族信託というものもあるようで、迷っています…」

家族のかたちも、資産のかたちも、ずっと同じではない

たしかに選択肢は複数あるといえますが、賃貸事業は20年、30年という長丁場のなか、管理・修繕はもちろん、建て替え、買換の決断も求められます。その場合、共有状態にしておけば、資産管理の足かせになる懸念があります。

 

とはいえ、夫婦ともに遺言書を作成して、3人の娘とそれぞれの孫に相続・遺贈していけば、当初の不安は軽減されます。税理士はそのようにアドバイスし、改めて3人の娘さんたちとともに、遺産分割についてよく検討してもらうことになりました。

 

ご相談者の中には、血のつながった子どもと孫には財産を渡したいが、子どもの配偶者には渡したくない、という方もあります。親族に財産を渡したいというお気持ちはわかります。

 

相続は、まずは相続人の子どもに渡していくことが自分の役割と考え、自分亡きあとの孫世代にどう渡していくかは、子どもに任せていくような割り切り方をされることも必要でしょう。

 

また、財産もずっと同じ状況で維持できるわけではありません。有効活用していくため、先を見越した決断が必要なのです。

 

 

※登場人物は仮名です。プライバシーに配慮し、実際の相談内容と変えている部分があります。

 

 

曽根 惠子
株式会社夢相続代表取締役
公認不動産コンサルティングマスター
相続対策専門士

 

◆相続対策専門士とは?◆

公益財団法人 不動産流通推進センター(旧 不動産流通近代化センター、retpc.jp) 認定資格。国土交通大臣の登録を受け、不動産コンサルティングを円滑に行うために必要な知識及び技能に関する試験に合格し、宅建取引士・不動産鑑定士・一級建築士の資格を有する者が「公認 不動産コンサルティングマスター」と認定され、そのなかから相続に関する専門コースを修了したものが「相続対策専門士」として認定されます。相続対策専門士は、顧客のニーズを把握し、ワンストップで解決に導くための提案を行います。なお、資格は1年ごとの更新制で、業務を通じて更新要件を満たす必要があります。

 

「相続対策専門士」は問題解決の窓口となり、弁護士、税理士の業務につなげていく役割であり、業法に抵触する職務を担当することはありません。

本記事は、株式会社夢相続のサイト掲載された事例を転載・再編集したものです。

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