(※写真はイメージです/PIXTA)

実業家として成功した美容師の夫は多忙を極め、専業主婦の妻とはすれ違い生活に。ところがある日、夫に婚外子がいることが発覚し、親族を巻き込んだ大問題に発展します。妻は自分と子どもを守る方法を探りますが…。相続実務士である曽根惠子氏(株式会社夢相続代表取締役)が、実際に寄せられた相談内容をもとに、生前対策について解説します。

人気美容師で実業家の夫が引き起こした「大問題」

今回の相談者は、専業主婦の佐藤さんです。夫との間に〈将来の相続トラブルの火種〉が発覚したため相談に乗ってほしいと、筆者のもとを訪れました。

 

佐藤さんの夫は美容師で、もともと2人は同じ店舗で働く同僚でした。結婚後、佐藤さんはお子さんができたタイミングで退職し、専業主婦に。技術が高く人当たりも柔らかい夫はその店の看板美容師となり、勤め先の大手チェーン店からも評価され、何人もの先輩を飛ばして勤務先の店長となりました。その後、店の運営ノウハウを学び独立しましたが、そこでもビジネスを成功させ、いまは複数店舗を経営するまでに成長しています。

 

「2人目の子どもが生まれたタイミングで、2件目の店をオープンすることになりまして。下の子はあまり体が丈夫でなかったのですが、多忙な夫に頼れず、当時はたったひとり、子育てに奮闘していました」

 

佐藤さんの夫は多忙で、家族はすれ違いとなってしまいましたが、潤沢な生活費を渡してくれており、生活に不安を感じたことはなかったといいます。

 

「上の子が高校生になったときでした。自宅に赤ちゃんを抱いた若い女の子が訪ねてきたのです。話を聞いても要領を得ず、でも、半泣きになりながら切羽詰まった様子だったので、とりあえず室内に招き入れました。よくよく話を聞いたら、抱いている赤ちゃんは夫の子だというじゃないですか。その後も興奮して〈夫に認知してもらいたい〉〈夫の帰宅までここで待つ〉と繰り返し、大混乱になってしまいました…」

 

佐藤さんだけでなく、双方の両親も巻き込んだ大騒動に発展したのです。

 

「夫を締め上げたところ、その女性とのことは事実だと白状しました」

 

佐藤さんの夫は土下座し「離婚したくない、許してください」と繰り返し訴えたそうです。その後、双方の親族を交えた話し合いを行い、夫は婚外子を認知し、成人するまで養育費を払うと公正証書を作成し、とりあえずことは収まりました。

未来の相続で、自宅を失うのは避けたい!

夫は離婚したくないと泣き、専業主婦の佐藤さんも未成年の2人の子どもを連れて離婚に踏み切れず、結婚は続くことになりました。

 

「でも、収まらないのは私の気持ちですよ! 無料の弁護士相談に行ったら、自宅に〈仮登記〉をつける方法があるというアドバイスをもらいました。ですが、具体的にどうすればいいかわからなくて。具体的に教えてもらえますか?」

 

佐藤さんの自宅は、最寄り駅から数分の立地の一戸建てで、土地、建物は夫名義です。上の子どもが小学校に入るときに土地を購入し、こだわりぬいた注文住宅を建てたのです。敷地50坪、建物40坪で、佐藤さんはこの家を非常に気に入っています。

 

「夫の相続のとき、認知した子ともしトラブルになったら…。あの家を手放すことになるのは、絶対に避けたいのです」

同席した税理士が、婚姻期間を尋ねたワケ

打ち合わせに同席していた提携先の税理士が、佐藤さん夫婦は結婚して何年になるのか確認しました。佐藤さんの「21年目です」という返事を聞き、提案したのが、いわゆる「おしどり贈与」、居住用不動産あるいはそれを取得するための金銭の贈与が行われた際、最高2,000万円まで控除できるという特例です。

 

自宅の土地の路線価評価をすると、ぎりぎり2,000万円以内だったため、土地の全部を佐藤さん名義にすることが可能だと判断しました。

 

建物は減価償却していきますし、建て替えるときに佐藤さん名義にすればいいと考え、まずは土地を佐藤さんにしておくことで、将来の夫の相続での「自宅を失う不安」がなくなります。

 

さらに、夫と佐藤さんに公正証書遺言を作成するようアドバイスしました。そうしておけば、夫の相続のとき、婚外子やその母親と遺産分割協議をしなくてもすむようにできるのです。

 

佐藤さんは、早速夫と話し合い、すぐにでも贈与手続き、公正証書遺言の作成を進めると言い残し、急いで事務所を後にされました。

婚姻20年以上の夫婦間で使える“おしどり贈与”とは?

“おしどり贈与”とは、正式には「贈与税の配偶者控除の特例」という名称の制度です。婚姻期間が20年以上の夫婦間で、一定の要件を満たす居住用不動産あるいは居住用不動産の購入資金を贈与した場合に適用できます。

 

通常、暦年贈与と呼ばれる贈与をした場合、年間110万円の基礎控除を上回った金額について贈与税が課されますが、“おしどり贈与”の適用を受ければ、基礎控除とは別に2,000万円の控除が受けられます。そのため、最大で2,110万円まで非課税で居住用不動産やその取得資金を贈与することができるのです。

「おしどり贈与」のメリットとは?

“おしどり贈与”を利用するメリットの1つは、1人の人が保有する財産を配偶者に先渡しすることで、相続税の節税ができることです。

 

たとえば、夫婦で保有する財産のほとんどを夫が保有している場合、夫が先に亡くなると、妻が夫の財産を相続する際に相続税が発生することがあります。しかし、“おしどり贈与”を適用して居住用不動産の一部を妻に移しておくと、相続税が発生しない状態にできる場合があるのです。

 

通常の暦年贈与が相続発生前3年以内にされていた場合は、相続財産にその贈与した財産を加算しなければなりません。しかし、おしどり贈与により移転した財産については、相続財産に足し戻す必要がありません。そのため、おしどり贈与は確実に相続財産を減らすことができるのです。

 

さらに自宅を売却する場合、居住用財産の譲渡の特別控除として、所得金額から3,000万円が控除されます。自宅の名義が夫だけであれば、売却による所得は夫だけに発生するため、3,000万円だけが控除されることとなります。けれども、おしどり贈与を利用して妻にその持分を贈与しておいた場合、夫と妻の両方とも3,000万円控除が適用できます。そのため、売却時に譲渡所得が発生せず、所得税がゼロになる可能性もあります。

「おしどり贈与」にはデメリットもある

おしどり贈与を利用する場合、贈与税については2,000万円まで非課税となりますが、デメリットとなるのは、不動産所得税や登録免許税が非課税にならないことです。不動産を相続した場合は不動産取得税が非課税となりますが、贈与の場合は固定資産税評価額の4%が発生します。また、登録免許税も相続の場合は0.4%、贈与の場合は2%と、その税負担は5倍にもなります。そのため、おしどり贈与を利用することでかえって税負担が増えてしまう可能性もあるのです。

 

配偶者が相続する場合、配偶者の税額軽減という制度が相続税にはあります。この制度を利用すれば、1億6,000万円か、配偶者の法定相続分のいずれか大きい金額まで配偶者が相続しても、相続税はかかりません。そのため、不動産取得税や登録免許税を多く負担してまでおしどり贈与を利用する意味がないケースもあるといえます。

「おしどり贈与」を利用する手続きの流れ

おしどり贈与の適用要件は、大きく3つに分けて考える必要があります。

 

■要件①

夫婦の婚姻関係が20年を過ぎた後に贈与が行われていることです。婚姻関係とは、法律上の婚姻関係にあることが必要であり、事実婚や内縁関係では適用されないことに注意が必要です。また、20年間という期間は、必ずしも連続している必要はありません。いったん離婚した後、再び婚姻関係になったという場合でも、通算して20年以上の期間があれば適用されます。また、同じ配偶者からは一生に一回限りとされ、2回以上適用を受けることはできません。

 

■要件②

贈与された財産が居住用不動産であるか、その取得用の資金であることです。居住用不動産とは、専ら居住の用に供する土地等または家屋をいいます。また、その不動産は、日本国内にあるものでなければなりません。なお、土地だけを贈与することもできますが、この場合は同居する親族のいずれかが家屋を保有していなければなりません。

 

■要件③

贈与を受けた年の翌年3月15日までにその居住用不動産に住んでおり、その後も住み続ける見込みがあることです。贈与を受けた人が居住用に用いる財産であるため、特例として贈与税がかからないこととされています。そのため、贈与を受けた後、実際に住んでいないという状態になっていてはいけないのです。なお、この要件は居住用不動産の取得資金を贈与された場合にも適用されます。資金の贈与を受けてから、居住用不動産を取得し住み始めるまでの期間を逆算して、いつ贈与するかを決めるようにしましょう。

 

 

※登場人物は仮名です。プライバシーに配慮し、実際の相談内容と変えている部分があります。

 

 

曽根 惠子
株式会社夢相続代表取締役
公認不動産コンサルティングマスター
相続対策専門士

 

◆相続対策専門士とは?◆

公益財団法人 不動産流通推進センター(旧 不動産流通近代化センター、retpc.jp) 認定資格。国土交通大臣の登録を受け、不動産コンサルティングを円滑に行うために必要な知識及び技能に関する試験に合格し、宅建取引士・不動産鑑定士・一級建築士の資格を有する者が「公認 不動産コンサルティングマスター」と認定され、そのなかから相続に関する専門コースを修了したものが「相続対策専門士」として認定されます。相続対策専門士は、顧客のニーズを把握し、ワンストップで解決に導くための提案を行います。なお、資格は1年ごとの更新制で、業務を通じて更新要件を満たす必要があります。

 

「相続対策専門士」は問題解決の窓口となり、弁護士、税理士の業務につなげていく役割であり、業法に抵触する職務を担当することはありません。

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    本記事は、株式会社夢相続のサイト掲載された事例を転載・再編集したものです。

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