「若者はリスクを取れる。だが高齢者は…」の真偽
若者は投資で失敗しても、働いたり倹約したりして取り返すことが可能なので、積極的に投資をしてもいい。だが、高齢者は取り返しがつかないので、リスク資産を減らして安全資産を持つべきだ――。
そのように語る人は多いですね。
しかし、それは危険な考え方です。ただでさえ、高齢者は保守的な考え方を持ちやすいのに、安全資産を持つようにいわれたら、現金と預金ばかり持つようになるでしょう。
「金融資産は現金と預金ばかり」という高齢者が多いので、それを改めてらおうと筆者は考えているのですが…。
高齢者の金融資産、預金に偏っていて心配…
銀行預金は、安全資産ではなく、リスク資産です。だから株と外貨と預金をバランスよく持ちましょう、というのが筆者の考え方です。
銀行が倒産するリスクを心配しているのではありません。銀行が破産しても残高1,000万円までは政府が代わりに払い戻してくれるので、数千万円持っていても数行に分けて預金しておけば心配ありません。あるいは、銀行に預金せずに国債を買っておいてもいいわけで、対策をすればそうした心配は無用なのです。
筆者が心配しているのは、インフレが来て銀行預金が目減りする(預金で買える物の量が減る)リスクです。インフレの中でも筆者が心配しているのは、労働力不足によるインフレと、大災害によるインフレです。
これから少子高齢化によって労働力不足が深刻化していくでしょう。そうなると賃金が上がり、それが売値に転嫁されるようになっていくでしょう。毎年1%ずつ物価が上がると、30年で30%も預金が目減りすることになるわけで、老後の資金計画が大きく狂ってしまうことにもなりかねません。
過去何十年も賃金上昇によるインフレは起きていません。いま起きているのは輸入物価の高騰によるインフレなので、一時的なものでしょう。しかし、だから今後も起きないと決めつけるのは危険です。少子高齢化による労働力不足は今後一層深刻化していく可能性が高いからです。
リスクとしては、南海トラフ大地震により物価が何倍にも高騰することの方が心配かもしれません。東京等が壊滅的な被害を被れば、工場の倒壊によって生産力が乏しくなり、食料も復興資材も何もかも不足するからです。
そして、復興資材の輸入が激増するでしょう。それによるドル買いが猛烈なドル高をもたらすでしょう。そうなれば、輸入価格が跳ね上がり、国内物価を押し上げるでしょう。
南海トラフへの備えとしては、老後資金をすべて円の預金で持つのではなく、米ドル建て資産(具体的には米国株の投資信託がよさそうですが)に資金を振り分けておくことが望ましいでしょう。
年金受取開始を待つために、老後資金を使う
筆者は、老後資金の最大の味方は公的年金だと考えています。老後資金を考える際の最大のリスクは長生きとインフレですが、公的年金はどんなに長生きしても最後まで払ってもらえますし、インフレになれば原則としてその分だけ毎回の支給額が増えますから。
そして、公的年金は受け取り始める時期を60歳から75歳までの間で選ぶことができ、遅く受け取り始めると毎回の受取額が多くなるのです。
原則は65歳からの受け取り開始ですが、たとえば70歳からの受け取り開始を選ぶと毎回の受取額が42%増えます。長生きしている間にインフレが来る、という最悪のケースへの備えができるので安心ですね。損得という点からも、平均寿命まで生きれば元がとれる計算です。
それを考えると、老後資金を何で持つか、というよりも老後資金の最高の使い道は生活費として使ってしまって年金の受け取り開始時期を遅らせることだ、という考え方も可能でしょう。
高齢者の資産形成&管理は、「認知症リスク」も念頭に
預金はインフレに弱いリスク資産なので、インフレに強い株や外貨にも資金を振り分けるべきだ、というのが筆者の基本的な考え方です。具体的には上記のように米国株の投資信託に毎月積み立て投資をおこなっておく、というのが簡単で安全だと思います。
ただ、注意が必要なのはたとえば認知症になった時に株や外貨の取引ができなくなってしまったり、銀行の預金が引き出せなくなってしまったりする可能性があることでしょう。
そのあたりは金融機関と相談してみたり、家族信託といった制度を検討してみたりするといいかもしれません。子供を信用しているのであれば、たとえば毎年100万円ずつ贈与しておいて、「自分が認知症になったらこの資金で面倒をみてくれ」と頼んでおく、というのも選択肢として検討してみては如何でしょうか。
本稿は以上ですが、資産運用等々は自己責任でお願いします。なお、本稿はわかりやすさを重視しているため、細部が厳密でない場合があり得ます。
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塚崎 公義
経済評論家
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