「退職金=ごほうび」という思考に潜む危うさ
サラリーマン(男女を問わず、公務員等を含む。以下同様)の多くは、定年退職時に多額の退職金を手にするでしょう。そのとき、
「長年わが社のために働いてくれてありがとう!」
「お礼として、そしてごほうびとして、退職金を差し上げます!!」
なんていわれた気持ちになるかもしれませんが、それは危険かもしれません。
また、いままで手にしたことがないような金額を目の前にして、
「自分へのごほうびと、配偶者への感謝として世界一周旅行をしよう!」
などと考えてしまうかもしれません。
しかし、退職金は大切な老後資金の重要部分ですから、散財することなくしっかり守っていきたいですね。もちろん、国内旅行にいく程度なら問題ないでしょうが…。
「金融資産が増えた」と思い、気が大きくなると…
急に金持ちになったような気がするのも危険な兆候です。「少しくらい贅沢しても…」と気が緩むのも危険なのですが、銀行の姿勢が急変することにも要注意です。
銀行は、退職金が振り込まれた人に丁重なもてなしをするでしょう。もしかすると、支店長室に招かれ、支店長から直々に頭をさげてもらえるかもしれません。それまでは支店長など到底会ってもらえなかったのに、いきなり頭を下げられると、自分が偉くなったような気がして舞い上がってしまうかもしれません。
そんなとき、支店長から多額の投資信託を買うように勧められたら、つい買ってしまうかもしれませんね。しかし、それはお勧めできません。筆者は投資信託を買うこと自体には賛成ですが、少しずつ時間をかけて買う方がはるかに安全です。
一度に大量に買うと、あとから振り返って「退職した時が株価の一番高い時だったので、大量に買った投資信託が大幅に値下がりして、老後資金が足りなくなった」ということになりかねないからです。
それがわかっていても「支店長に頭をさげていただいたのに、アドバイスを無視するのは恐縮だ」という気持ちになるかもしれませんね。そんなときには思い出しましょう。支店長が頭をさげているのは、あなたではなく、あなたの退職金に対してだということを(笑)。
現役時代から「退職金受領後の金融資産」を考える
退職金を受け取った瞬間に自分の金融資産の全体像がどうなるのか、現役時代からイメージしておくようにしましょう。
もしかしたら「多額の現預金があるだけ」という状況になる人も多いかもしれませんが、そうなると、「預金はインフレに弱いので、老後資金の一部をインフレに強い資産に振り替えなければ!」と考え、発作的に多額の投資信託を購入したくなってしまうかもしれませんよ。
一度に多額の投資信託を買うのは危険ですが、しかしまた、退職金を受け取ってから少しずつ投資信託を積み立てると、その間にインフレが来て、預金が目減りするリスクを抱えることになります。
それを避けるには、退職前から「退職金が出たら、自分の資産は銀行預金ばかりになってしまう。そのときに焦るのは嫌だから、いまのうちから少しずつ投信を積み立てておこう」と考えるとよいでしょう。
退職日の前日に、銀行預金ゼロ、金融資産はすべて投資信託に…となっても構いません。どうせ明日になれば、多額の退職金が振り込まれるのですから。
「手元資金は住宅ローンの繰上げ返済に使っているから、投資信託を買う金がない」という現役世代の話も耳にしますが、住宅ローンの返済を急ぐ必要はありません。どうせ金利は低いのですから借りたままにしておいて、退職金で一気に返せばいいのです。
どんな受け取り方でも「社内預金の満期」だと考えよう
筆者は、退職金を社内預金の満期だと考えればいいと思っています。「自分の給料は、本当はもっと高いのだが、会社が強制的に社内預金しているので手取り額が少ないのだ。そして、社内預金は退職日に満期になるのだ」というわけです。
それなら、退職金をごほうびだと考えて贅沢をしてしまうリスクも小さいですし、急に金持ちになったような気がして気が大きくなったり、偉くなった錯覚に陥ることも少ないでしょう。
そしてなにより、
「自分は多額の社内預金を持っているのだから、銀行預金など少なくても構わない。むしろ、社内預金に加えて銀行預金を持っているようでは、金融資産がインフレに弱い預金に偏りすぎている。インフレに強い資産を少しは持たなくては!」
そんなふうに考える契機となるでしょう。
社内預金の満期だと考えるためには、満期に戻ってくる社内預金の残高を知っておく必要がありますね。定年退職が近づいたら人事担当者に大体の金額を問い合わせておくと、老後資金について考える際の参考になるはずです。
なお、最近は、退職金を一時金ではなく年金等の形で受け取る場合も増えているようです。そのほうが上記のようなことは起こりにくいのでしょうが、それでも「ごほうびではなく社内預金の満期」という認識を持つのは、悪いことではないでしょう。
本稿は以上ですが、資産運用等々は自己責任でお願いします。なお、本稿はわかりやすさを重視しているため、細部が厳密でない場合があり得ます。
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塚崎 公義
経済評論家
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