(※写真はイメージです/PIXTA)

人生の目標や日々の学びを手帳に書き、常日頃から読み返していたことが夢の実現につながるといいます。老人医療に詳しい精神科医の和田秀樹氏が著書『「65歳の壁」を乗り越える最高の時間の使い方』(日本能率協会マネジメントセンター)で解説します。

「紙に書く」ことだけにしかない機能

■書くということの魔力

 

ここでもしかしたら、こんな疑問を持った方もいるかもしれません。

 

「あとからインターネットで調べなくなって、すぐにスマートフォンで調べればいいのに」
「第一、パソコンやスマートフォンなどデジタルツールが普及する時代に、なぜアナログな手帳を勧めるのだろう?」

 

確かに、パソコンやスマートフォンでも文字を入力することはできます。情報を記録するという点では、何も変わらないと思われるかもしれません。

 

持ち運びができるという点でも、スマートフォンと手帳の利便性はほとんど変わりません。さらに言えば、インターネットにつなげられるという点などで、スマートフォンに分があるとお考えでしょうか。

 

ですが、手帳にだけしかない機能があります。

 

お分かりのとおり、「紙に書く」ということです。書くことには、力があります。ここでは2つのポイントを紹介しましょう。

 

①インプットとアウトプット

 

1つ目のポイントは先ほどから述べている、インプットとアウトプットの力です。

 

書くことがインプットになることは、受験勉強やビジネスの例で挙げました。これについて、私たちはスマートフォンやパソコンなどに入力するよりも、紙に書いたほうが覚えられるということがわかっています。

 

東京大学大学院総合文化研究科の酒井研究室と日本能率協会マネジメントセンター、NTTデータ経営研究所から成る共同実験によれば、物事を覚えたり思い出す場合に、それを書き留めたメディアによって差が生じるといいます。

 

実験では参加者を、スマートフォンとタブレット、そして手帳の3つに分け、さらにタブレットと手帳は見開きの大きさを合わせ、どちらもペン入力を行いました。すると、手帳に書いた場合が、もっとも短時間で要領よく記憶できたそうです。

 

スマートフォンやタブレット、パソコンなどのデジタル機器は、文字を入力しても、その字の大きさや、画面上の位置などが一定ではありません。そのため、記憶する手がかりが少ないのです。

 

一方、紙に書く場合には、その文字の大きさや位置が書かれた状態から変わることはありません。ですから「ノートの右下に雑に書いたあの情報」というように、脳内に定着しやすくなるのです。

 

私は受験勉強法の本も多く書いてきましたが、そこでは授業内容をノートにひたすら書くということを勧めています。これは板書された内容に限りません。むしろ板書された内容を綺麗に書くことよりも、講師の話した言葉を何気ない雑談まで徹底的に書き残すことを大事にしています。そのほうが記憶に残りますし、後から見返した際に役立つためです。

 

また、一般的に文字を手書きするほうは、デジタル機器に文字を入力するよりも時間がかかりますから、その時間の分だけ頭に焼き付けることにもつながってきます。

 

これはアウトプットも同じことでしょう。やはり手書きには時間がかかりますから、しっかりと頭を働かせるということにつながってくるのです。

 

②リラックス効果がある

 

次に2つ目のポイントが、紙に書くということのリラックス効果です。

 

眠る前に書いてみることで、睡眠の質が上がると書きましたが、こうした効果が他にもあります。

 

このコロナ禍は多くの人に不安感を引き起こし、さまざまな制限を強いることになりました。ストレスを感じた方は決して少なくありません。

 

日本能率協会マネジメントセンターが行った意識調査によれば、コロナ前から日常的な手書き習慣があった方の2割以上が、コロナ禍になってさらに手書きの量や機会が増えたといいます。

 

特に女性は「感情を書き出し、気持ちを整理したい」「日記をつけたい」というのが理由に挙げられました。

 

手帳というプライベートなものであれば、「こんなことを言ったらどう思われるか」と人の目を気にしなくていいのですから、自分の感情をただ書き記すことに遠慮はいりません。悩みや不安を、自分の胸の中でうつうつと抱え込んでいるよりも、紙に手書きするほうがストレス発散につながっていきます。悩みや不安を書いた紙は、そのまま気持ちごと、くしゃっと丸めてゴミ箱に捨ててしまうことで、気分も軽くなっていきます。

 

このように書くことの力は多くの場面で役立ちますし、意識せずとも活用している方は多いはずです。デジタルツールならではの良さもたくさんありますし、パソコンやスマートフォン入力がダメだというわけではありません。「手書きでなければならない」ということを主張するわけでもありません。

 

ただ、デジタル時代だからといって、手で書くというアナログの力が無くなるということはないのです。

 

和田 秀樹
ルネクリニック東京院 院長

 

 

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※本連載は和田秀樹氏の著書『「65歳の壁」を乗り越える最高の時間の使い方』(日本能率協会マネジメントセンター)より一部を抜粋し、再編集したものです。

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