(※写真はイメージです/PIXTA)

社内のDX推進で特に重要になるのは、社内全体をつなぐシステムツールです。しかし、折角便利なツールを導入しても、現場ではなかなか使われず無用の長物となるケースは少なくありません。なぜなのでしょうか。不動産販売事業を経営する筆者・中西聖氏が自社で進めたDXプロジェクトの経験をもとに解説します。

 

既存のCRMツールが社員に使われない原因

CRMツールは使い方が難しいのか、あるいはほかに使われていない理由があるのか。その問題を解決しない限り、既存のCRMツールは無用の長物だった。

 

既存のCRMツールの導入プロジェクトはイワサキ(※)に仕切ってもらったが、その後は誰が担当していたのだろうか。イワサキに聞いてみると、営業部門のなかでITに詳しそうな人に引き継いだという。

 

※イワサキ:筆者が経営する企業の社員。資金調達の業務全般を見ている取締役。また、筆者を中心としたDXプロジェクトチームのメンバー。(詳しくは『DX推進に「精密な」ロードマップは無駄といえる理由』を参照)

 

導入後の設定やカスタマイズは彼が担当したようだったが、営業と兼任のため時間がなく、使い方のレクチャーをしたり、有効活用したりするための研修などは行っていない。

 

ここにも兼任の弊害が現れていた。DXと同様にCRMツールの運用も大仕事である。片手間でできることではなく、いつの間にか形だけの担当になり、今では自分が担当だったことも忘れているのではないか、ということだった。

 

既存のCRMツールを使い続けるのであれば現状を改善する必要がある。社内DXは全員が同じプラットフォームで作業することが前提だ。使っていない人から理由を聞き、改善方法を考える。そのうえでCRMツールを使うかどうか判断しようと考えた。

 

既存のCRMツールの現状把握をDXチームに任せる一方、僕はイワサキにこのCRMツールを導入した狙いを聞くことにした。イワサキによれば、このCRMツールは他社のシステムと比べてCRMとしての機能と汎用性、拡張性が最も優れているという。また、当時の導入の背景として将来的には契約書の電子発行に結びつけるという目的もあったようだ。

 

(※画像はイメージです/PIXTA)
(※画像はイメージです/PIXTA)

 

では、なぜ使われていないのか。

 

「既存のCRMツールは優秀で、いろいろな展開ができます。しかし、当時の会社の規模や業容に対しては“リヤカーにエンジンを積むようなもの”だったんです」

 

イワサキはそう答えた。いくらすばらしいエンジンでもリヤカーには不要だ。タイヤとつながっていなければ動力にならず、ただ重いだけだ。だから、誰も使わず、分相応なエクセルを使う人が多かったというわけだ。

 

しかし、今後はその状態が変わっていくだろうとイワサキは言う。

 

「実際にDXが進み、現場で効果が理解され始めれば、会社全体のDXリテラシーも上がっていくでしょう。そうなった時には、このデカいエンジンをフル活用できるかもしれません」

 

「CRMツールの効果的な活用でDXの取り組みが加速する可能性もある、ということですね?」

 

「そう思います。そのためにはエンジンをタイヤにつなげたりエンジンを調整したりする専任の担当者が必要になるでしょうね」

 

CRMツールの導入に向けて、イワサキはもう一つ指摘した。

 

「CRMツールはユーザーである現場が便利さを実感しなければ浸透しません。経営側に利活用の構想があっても、結局、使うのは現場です。彼らが使いたいと思うかどうか、その感覚と感情が決め手になるんです」

 

イワサキの言うことはもっともだった。業務フローとしてCRMツールを使わざるを得ない仕組みにすることも重要だが、現場がストレスなく便利に使うようにするためには、CRMツールを使うことに効果があると感じてもらわなければならない。

 

業界内外の評価として「良いシステム」「便利なツール」と聞いて導入する。しかし、いざ導入してみると効果が出ず、運用されない。これはDXでよくある失敗だ。現場にとって使いやすいツールをきちんと運用していくためには、DXチームのなかにCRMツールの専任をつくるか、あるいはDXチームとは別にCRMツール専任のチームをつくるかして対応していく必要がありそうだと思った。

 

 

中西 聖

プロパティエージェント株式会社

代表

 

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※本連載は、中西聖氏の書籍『DX戦記 ゼロから挑んだ デジタル経営改革ストーリー』(幻冬舎メディアコンサルティング)より一部を抜粋・再編集したものです。

DX戦記 ゼロから挑んだデジタル経営改革ストーリー

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中西 聖

幻冬舎メディアコンサルティング

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