(※写真はイメージです/PIXTA)

「意欲がなくなってきた」「何かをするのが億劫になった」…意欲がなくなれば、行動をしなくなり、体や頭を使うことが減り、心も体もさらに衰えていきます。老人医療に詳しい精神科医の和田秀樹氏が著書『「65歳の壁」を乗り越える最高の時間の使い方』(日本能率協会マネジメントセンター)で解説します。

老化防止に効果的なアウトプット

■学びもアウトプット型へ移行する


 
さらに、前頭葉を使い続けるために重要なのが、常に学び続けるということです。

 

そもそも今の60代のみなさんは「勉強は必要」というお気持ちが強い傾向があります。ですから、学び続けることが大事だと聞けば、わりとすんなりと納得していただけるかもしれません。

 

ただし、ここには2つの罠があります。

 

一つ目は「思うほど学びが進まない」という罠であり、二つ目は「学んでも効果が出ない」という罠です。

 

まず、「思うほど学びが進まない」ことについては、いざ勉強を始めてみればすぐに気づくでしょう。参考書の中身は頭に入らず、新しいことも覚えにくい。こうなると、やる気にもつながりません。

 

学びが進まない理由は、勉強から遠ざかってしまったために勉強法自体を忘れてしまったためことと、現役時代に比べて切迫感がないことです。特に切迫感については現役時代と定年後では、置かれた状況が大きく異なります。現役時代だったら資格を取得すれば、給与にも反映されたかもしれません。組織内での人間関係にも影響したことでしょう。ところが定年を迎え、こうした動機がなくなると、「学ばなければならない」という切迫感は乏しくなります。

 

すると自発的に学び続けることは難しく、脳は刺激されることなく、衰えていってしまいます。

 

一方、二つ目の「学んでも効果が出ない」については、ご自身では気づきづらいでしょう。そのため、より深刻と言えるかもしれません。

 

日本の場合、勉強法というと、本を読んだり、情報を収集して知識を吸収するとイメージされる場合が一般的です。つまりインプット(入力)中心の勉強です。しかし、年を取るとインプット中心の勉強は、あまり意味がなくなってくると私は考えています。

 

というのも、インプット中心では、前頭葉をそれほど使わないからです。インプット中心の学び方は「知識が増えていく」気にさせるために、脳が刺激されたと錯覚してしまいます。そこで満足し、結果的には前頭葉の萎縮が進んでしまうこともありえます。

 

私が勧めたい勉強法は、こうした知識吸収型よりも経験型です。

 

いろいろなことを試して、経験しながら学んでいってほしいのです。経験型の学びは、新しい体験ですから、脳への刺激となり、前頭葉をしっかりと使っていくことができます。

 

また経験型で得る知識のほうが、概して知識吸収型のものよりも、情報として価値は高いと私は考えています。

 

現在、多くの情報はインターネットにあふれていますし、すぐに検索をして得ることができます。誰でも簡単に得られる学びであれば、それを語ったところであまり喜ばれません。むしろ、「何をいまさら」とうんざりされるかもしれません。

 

それが経験で得たものであれば、肌感覚で語ることができます。インターネットの情報が最新というわけでは決してありませんし、「実は今はこうなっている」と経験から語れれば、まわりの方に話しても面白がってくれることが増えるでしょう。

 

そして、この得た知識を頭の中だけに留めないということが重要なポイントになってきます。

 

学びにおいては、インプットが重視され、あまりアウトプット(出力)に意識が向いていない場合が少なくありません。

 

これは世代に限らず、日本では多い考え方ですが、特に高齢になればなるほど、アウトプットを重視していただきたいと思います。

 

人間の脳(大脳皮質)は、大きく4つに分けられます。前頭葉、側頭葉、頭頂葉、後頭葉です。このうちインプット、つまり記憶に関わってくるのは側頭葉です。一方でアウトプットとして、持っている記憶や知識、情報を引っ張り出す機能は、前頭葉が担います。また、アウトプットのために、知識や情報を元に、自分なりの考えを組み立てていく上でも前頭葉は大きな役割を果たしてくれます。

 

「この前、初めて行ったお店でのメニューがおいしくて」と思い返しながら、人に話すのはアウトプットの一例です。どうしても記憶力は衰えてきますから、なかなか名前が出てこないかもしれません。それでも「えぇっと、何て名前だったっけなあ……」と考えてみること自体が、脳のトレーニング。時間がかかってもいいですし、思い出せなくても構いません。それもまた愉快な時間になるはずですから。

 

こうして、アウトプット中心の学びによって前頭葉が刺激されていきます。そのため、アウトプットこそ、老化防止として効果的なのです。

 

和田 秀樹
ルネクリニック東京院 院長

 

 

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※本連載は和田秀樹氏の著書『「65歳の壁」を乗り越える最高の時間の使い方』(日本能率協会マネジメントセンター)より一部を抜粋し、再編集したものです。

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