このインフレはあと20~30年続く!? 「新型コロナ」「ウクライナ侵攻」より深刻な「3つ目の原因」とは【元IMFエコノミストが解説】

このインフレはあと20~30年続く!? 「新型コロナ」「ウクライナ侵攻」より深刻な「3つ目の原因」とは【元IMFエコノミストが解説】
(※写真はイメージです/PIXTA)

日本においては、物価高にも関わらず賃金がほとんど上がりません。この状況が作り出された原因とは一体何なのでしょうか。本連載では、元IMF(国際通貨基金)エコノミストで東京都立大学経済経営学部教授の宮本弘曉氏が、著書『51のデータが明かす日本経済の構造 物価高・低賃金の根本原因』(PHP研究所)から日本経済の問題点について解説します。

新たなインフレの登場―グリーンフレーション

世界でインフレが高進する理由として、「グリーンフレーション」も指摘されています。

 

グリーンフレーションとは、脱炭素化など地球環境に配慮して経済活動を行うことを表す「グリーン」と、物価の持続的な上昇を意味する「インフレーション」を掛け合わせた造語です。

 

今、世界では、地球温暖化を引き起こしているとされる温室効果ガスの排出量をネットゼロにする「脱炭素化」の流れが加速しています。

 

ネットゼロとは、「温室効果ガスの排出を全体としてゼロにする」ことで、温室効果ガスの排出量から吸収量を差し引いた合計がゼロとなる「実質ゼロ」を指す言葉です。日本は2050年までに温室効果ガスの排出をネットゼロにする方針を掲げています。

 

なぜ、経済のグリーン化が物価上昇を招くのでしょうか?

 

国際的な脱炭素化の潮流のなか、石油や石炭などの化石燃料に対して新規の投資を行うことは座礁資産になる可能性があります。それゆえ、化石燃料に対する投資が抑制され、その供給が鈍化し、価格が上昇します。

 

また、脱炭素化が進むなかでは、価格が上昇したからといって、産油国はこれまでのようには増産に応じづらいと考えられます。さらに、長期的にその需要が低下するのであれば、産油国は、安易に増産を行わず、高値を維持することで、今のうちに収入を得ようとするかもしれません。

 

また、脱炭素化を進めるうえでは、温室効果ガスの代表である二酸化炭素を排出しない再生可能エネルギーへの移行が重要ですが、それには時間や膨大な費用がかかります。

 

そのようななか、欧州を中心に、石油や石炭に比べて相対的に環境への負荷が少ない天然ガスに対しての需要が高まり、価格が押し上げられています。実際、2021年春以降、欧州天然ガス価格の高騰が続いています。

 

さらに、脱炭素社会実現のために不可欠な太陽光発電や風力発電などの再生可能エネルギーや電気自動車(EV)は、銅やアルミなどの金属資源を多く必要とします。

 

たとえば、EVは車体の軽量化に多くのアルミが使用されています。また、モーターなどに使う銅の使用量はエンジン車の4倍にのぼるとも言われています。

 

脱炭素化に向けて使用する金属資源への需要が高まり、それらの価格が高騰していますが、これらもグリーンフレーションの一種です。

 

将来、脱炭素化が進めば、こうした化石燃料や金属資源の価格変動が経済全体の物価に及ぼす影響は低下していくと考えられますが、移行期間においては、グリーン化がむしろ化石燃料や金属資源の価格を押し上げ、インフレを加速させるリスクがあります。

 

さらに言えば、グリーンフレーションは構造問題で、短期的な話ではありません。グリーンフレーションが解消されるまでに20~30年かかるとの見方をする専門家もいます。

 

 

宮本 弘曉

東京都立大学経済経営学部

教授

 

51のデータが明かす日本経済の構造 物価高・低賃金の根本原因

51のデータが明かす日本経済の構造 物価高・低賃金の根本原因

宮本 弘曉

PHP研究所

●この30年で平均所得は100万円下落……なぜ日本の賃金は上がらない? ●理由は、国民が平等に貧しくなる「未熟な資本主義」にあった! ●元IMFエコノミストがデータで示す「歪んだ経済構造とその処方箋」! 物価の高騰、…

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