新型コロナ危機が経済の需要サイドに与えた影響
次に、新型コロナ危機が経済の需要サイドに与えた影響を考えましょう。コロナ禍では都市封鎖や移動制限などにより、外食の機会が大幅に減少したり、国内外への旅行ができなかったりと、人々の消費が抑制されていました。
行動制限が解除され、経済活動が徐々に再開されるなかで、こうしたペントアップ需要が一気に爆発し、人手不足や物流の停滞などにより低下していた供給を上回り、物価上昇につながっています。
新型コロナウイルス対応としての大規模な財政出動や金融緩和も、インフレを後押しする原因となっています。
世界各国は新型コロナウイルス対応として未曾有の財政出動を行ってきました。IMFの調べによると、各国が2020年初めから2021年9月27日までに実施した財政支援の総額は16.9兆ドルにのぼります。
そのうち、1割強の1.9兆ドルがアメリカによるものです。
この結果、世界で政府の債務が急増しています。[図表2]は政府債務残高の推移を示したものです。
これをみると、先進国の政府部門の債務残高(グロスベース)のGDPに対する比率は、2019年の103.8%から、2020年には122.7%に急上昇、第二次世界大戦直後、1946年の124%と同レベルとなりました。
また、世界の中央銀行は新型コロナウイルス禍への対応で、2020年に大規模な金融緩和に踏み切りました。大量の債権を購入することで市場に資金を供給し、長期金利を抑え込んで経済の底割れを防ぎました。
[図表3]は主要中央銀行のマネー供給量を示したものです。
日本銀行、米連邦準備制度理事会(FRB)、欧州中央銀行(ECB)、英イングランド銀行の主要4中央銀行の総資産は15兆ドルだった2020年2月から、2022年4月の25兆ドルまで、10兆ドル増加しました。
なお、2021年にインフレが加速し始めると、世界の主要中央銀行は金融引き締めに転じます。
こうしたコロナ禍による要因に加えて、ロシアによるウクライナ侵攻とグリーン化がインフレに拍車をかけています。
2022年2月24日にロシアがウクライナに軍事侵攻しました。ロシアによるウクライナ侵攻は直接的かつ悲劇的な人道上の影響をもたらすだけでなく、経済成長を阻害し、物価を押し上げると考えられています。
ロシアとウクライナのGDP合計が世界全体に占める割合は2%と大きくはありませんが、両国は一次産品の主要な輸出国となっています。小麦については世界の輸出量の30%、とうもろこしや無機質肥料、天然ガスの20%、石油の11%を両国で占めます。
さらに両国は金属輸出についても重要な役割を担っています。
ロシアによるウクライナ侵攻の長期化で、一次産品価格が高騰し、すでに増大していたインフレ圧力をいっそう高めています。