転職に中立的な制度設計を
労働市場を流動化させるには、労働移動が不利になるような制度・政策を撤廃し、市場メカニズムを機能させる必要があります。
日本企業の制度は長期雇用を前提としているものが多く、結果として、雇用を固定化し、転職が不利になるように設計されています。そして、それを支えているのが日本の税制や公共政策です。
雇用慣行と国の制度・政策が補完的な関係になっているので、国が制度・政策を変更することで、企業の雇用慣行も変化することが期待できます。社会保障や税制は転職に中立となるように改革すべきです。
たとえば、退職所得税制は長期勤続を優遇する一方、転職に不利な仕組みとなっています。一般に退職金は勤続年数に応じて加速的に大きくなります。
一例を挙げると、勤続30年の人の退職金は勤続10年の人の3倍以上となっています。経団連が2019年に発表した『退職金・年金に関する実態調査結果』によると、大卒の退職金は勤続10年だと約308万円、勤続30年だと約1,630万円と5倍以上です。これを支えているのが、退職金積立金の控除に関する税制です。
退職所得に対する税制は、勤続年数に応じた退職所得控除を計算し、その額を退職所得から控除し、そこでお金が残った場合には、それを半分にしたうえで、分離課税するという仕組みになっています。
退職所得控除は、勤続年数が20年以下の場合は勤続1年につき40万円、20年以上は勤続1年につき70万円となっており、長く働くほど控除額が大きくなるという、日本の報酬慣行に即した仕組みとなっています。
こうした退職所得税制は長期勤続を優遇する一方で、転職を不利にするしかけとなっています。退職金税制は転職に中立になるように改革し、企業の福利厚生制度の再設計を促すようにすべきでしょう。
また、雇用調整助成金は、コロナ禍で失業を抑えるのに一定の役割を果たしたものの、企業に事業構造改革を先送りさせたのも事実です。東京商工リサーチ「全国企業倒産状況」によると、倒産件数は2019年に8,383件だったのに対し、2020年には7,773件と、コロナ禍前よりも少なくなっています。
企業への過度な支援は新陳代謝を遅らせ、成長の阻害要因となります。労働移動を妨げない雇用安定策へのシフトが求められています。