困難が多い事業こそ、やりがいが大きくて面白い
■困難な道と楽な道。2つの道があったら、あえて困難な道を選べ!
パナソニックの創業者で、「経営の神様」とよばれた松下幸之助の有名な言葉に「成功するためには、成功するまで続けることである」がある。
松下によると、失敗する人は、たとえ「あと少しで成功する」というところまできていたとしても、それに気づかず「もうダメだろう」と諦めてしまう。
一方、成功する人は、周りが「ダメだろう」と言っているにもかかわらず、「まだまだ、あと少し」とがんばり抜いて成功にまで導く、という。
つまり、失敗する人は早々に諦めるのに対し、成功する人は成功するまで諦めることなくがんばり続けるため、最終的に成功を手にすることができるのだ。
もちろん、そのためには少々の失敗ではへこたれない「メンタルの強さ」が欠かせない。
そしてマスクは、さらにその上をいく「鋼のメンタル」を持っており、それが彼に成功をもたらし続けている。
既に触れたように、マスクは子どもの頃からパソコンやプログラミングが得意で、自作のゲームをつくり、500ドル(約7万円)を手にしたことがある。
大学生の頃には注文を受けてゲーム機や簡単なワープロをつくって、店より安く売るビジネスを行ない、動かなくなったパソコンを修理するサービスも提供していた。インターン先のシリコンバレーに本社を置く企業では、パソコン用のソフトも開発している。
マスクに最初の大きな成功をもたらしたのは、インターネットでのサービスを提供するZip2である。
今でこそ成功譚として語り継がれているが、創業当初は、人脈なし、資金なし、ものなしの状態だったため、特に資金繰りの面で塗炭の苦しみを味わった。
また、29歳でXドットコムを立ち上げた時も苦い経験をした。銀行という規制だらけの業界を相手に戦いを続けつつ、コンフィニティ社と合併してペイパルのCEOに収まったと思ったら、休暇中に内紛が起こってCEOの座を追われる。
この時のトラウマは相当なものだったようで、以来休暇を取るのが怖くなったマスクは、がむしゃらに働くようになる。
とにかく常人では経験し得ないような困難な状況を、「鋼のメンタル」で乗り切るのがマスクの特徴だ。
さて、ペイパルの売却によって大金を手にしたマスクは、学生時代から思い描いていた「世界を救う」「人類を救う」というミッションを思い返し、こう悟った。
「インターネットのサービスなんてやってる場合ではない」
インターネットの世界には、マスク以外にも「世界を変える」ことのできる人たちがいた。そこで、マスクは「自分にしかできない」世界を目指すようになっていく。
マスクが電気自動車や宇宙ロケットの開発に取り組んでいるのは、世界を変えるためであり、人類を救うためだ。
しかし、どちらもあまりに困難な事業だ。
テスラを創業した当初、マスクは「次世代のGМ(ゼネラルモーターズ)になる」と話していた。
しかし盟友J・B・ストローベルは、やがてこう嘆くようになる。
「自分たちが挑戦していることの難度を相当、過小評価していました。サプライチェーンの複雑さ、製造工程の複雑さ、電池設計の複雑さといったことです。まるで迷路の中にいる気分でした」
こうした開発の困難さに加え、テスラは何度も資金難にあえいでいる。
取引先や社員への支払いができなくなったため、マスクが個人で会社を支えた時期もあれば、2018年には「モデル3」の量産化の難しさから、マスク本人が「自動車ビジネスは地獄だ」とさえ呟いたほどだ。
スペースXも最初の打ち上げまでに実に3回も失敗しており、この時も資金難にあえいでいる。
そんな苦難を経て、ようやく最初の打ち上げに成功した時、マスクは思わずこんな感想をもらした。
「この地球上で達成できたのはわずか数ヶ国しかありません。普通は国家レベルの事業なんです。民間会社のやるようなことじゃない」
マスク自身が認めているように、電気自動車開発もロケット開発も「国家レベルの事業」であり、テスラやスペースXのようなベンチャー企業がやるようなことではない。まして個人の資金で、これほどの事業に挑むなど常識ではあり得ない。
それがわかっていながら、マスクはなぜ、宇宙ロケットの開発や電気自動車の開発に突き進むのだろうか。
「困難が多い事業こそ、やりがいが大きくて面白い」
ビジネスにおいて、難しいやり方と簡単なやり方の二択を迫られた時、あえて前者を選ぶ人がいる。そして成功者は、ほぼ前者の人たちである。
マスクにとっては、滅茶苦茶困難だけれども世界を救うことにつながる事業こそが、やる気をかき立てられるのだろう。
桑原 晃弥
経済・経営ジャーナリスト
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