マスクは巨大ビジネスを相手に戦いを挑む
■ビジョンを描け!人間が想像できることは、必ず実現できるんだ
「人間が想像できることは、人間が必ず実現できる」とは、「SFの父」と呼ばれるフランスの小説家ジュール・ヴェルヌの言葉である。
一説では彼の言葉ではないともされているが、いずれにしても『海底二万里』『月世界旅行』『八十日間世界一周』といった彼の小説を読めば、ヴェルヌ本人の言葉として語り継がれてもなんら問題のない名言だ。
実際、数々のSF小説や日本の漫画が描いた「未来」は、着実に実現へと向かっている。想像と科学というものは、いつも互いに刺激し合いながら発展していくのだ。
さて、SFや漫画で頻繁に描かれるものの一つが「宇宙旅行」であり、「火星など別惑星への移住」であり、言い換えればそれは「マスクの世界」ともいえる。
子ども時代のマスクは大変な読書家であり、日々、たくさんの本を読んでいたが、当時の愛読書としてはダグラス・アダムスの『銀河ヒッチハイク・ガイド』、J・R・R・トールキンの『指輪物語』、アイザック・アシモフの『ファウンデーション』シリーズ、ロバート・ハインラインの『月は無慈悲な夜の女王』を挙げている。
このように、マスクが幼い頃からSF小説で宇宙に強い憧れを持っていたのは確かで、初めて自身の手で稼いだ500ドルのビデオゲームも宇宙が舞台のSF風だった。
マスクは、ロケット開発などに没頭する理由を聞かれ、こう答えたことがある。
「子どもの頃コミックを読み過ぎたせいかな。コミックはどれも世界を救うような話ばかりだから。だいたい世界を良くするストーリーになっている。その逆だったら意味なしだし」もっとも、子ども時代にSF小説や漫画に夢中になったのはマスクだけではない。
幼い頃の体験がきっかけで、漫画家や映画監督への道、科学の世界に飛び込んだ人は少なくない。
だからといって、マスクのように、自分のすべてを賭けて「世界を救う」ためのロケット開発や電気自動車の開発に挑み続ける人がいるかというと、まずいないだろう。
小説や映画、漫画の世界で「世界を救う」物語をつくることはできても、「現実の世界」でそれを実現しようとすると、あまりの壮大さ、困難さに、たいていの人は「諦める」以前に「考えることさえやめてしまう」からだ。
ここにマスクの特殊性がある。
マスクはある意味、自動車産業や宇宙事業というとてつもない巨大ビジネスを相手に戦いを挑んでいるのだ。こうした産業は、たくさんの人を使うことが前提であり、大きな設備を必要とし、しかも組立メーカーとは別に何千社、何万社という協力会社が存在して初めてビジネスとして成立する。かかる資金も想像もつかないくらい莫大だ。
だからこそ、ガソリン自動車を何百万台も生産できる企業は数ヶ国からしか生まれなかった。ましてやロケット開発ともなると国家レベル、それも大国にしかできない産業である。IT企業を立ち上げるのとは、まるで違う難しさがそこにはあるのだ。
マスクがそんな未来をどこまで予測していたかはわからない。
ただ、1992年には奨学金を得てペンシルベニア大学に編入し、ビジネススクール・ウォートン校で経済学を学び、物理学の学位を取っている。当時からインターネットや持続可能なエネルギー、宇宙に強い関心を持っていたと思われ、こう話している。
「私は物理と商業を学びました。そういったこと(インターネットや持続可能なエネルギー、宇宙への移住)の多くを(実現)するためには、宇宙がどのように動いているかを知る必要があるし、経済がどのように動いているかを知る必要があり、そして何かをつくり出すためには大勢の人を取りまとめて協力してもらう必要もあると思ったからです。もしそれがすごいテクノロジーであれば、個人で何かを成すのはきわめて困難ですから」
大学時代、マスクはビジネスプランをつくる授業で何本かの論文を書いているが、彼の論文の特徴は、難解な物理学の概念を現実のビジネスプランに落とし込むところにあった。
本来ならこの両立は難しいのだが、マスクは「非常に緻密な分析」によって、「財務的な裏付けもしっかりした」ビジネスプランを当時から組み立てることができたらしい。マスクは幼い頃から、「世界を救う」ことを夢見る少年だった。
しかし、そこで留まることなく「世界を救う」ためには何が必要かを考え、必要なものを学び、手に入れてきたからこそ「世界を救う」ためのビジネスを創業し、成長させることができた。つまり、壮大なビジョンを描くだけでなくそれを現実化するには、綿密な計画と準備が欠かせない。
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