電気自動車を普及させる上で最も大きな障壁はインフラでした。マスクは全米に100カ所以上の急速充電器、充電設備のインフラを自力で整備をしています。経済・経営ジャーナリストの桑原晃弥氏が著書『イーロン・マスク流 「鋼のメンタル」と「すぐやる力」が身につく仕事術』(プレジデント社)で解説します。

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EV普及の最大の障壁はインフラ整備

■「良いものができた」で満足するな!「良いもの」を広める努力をするんだ

 

マスクがつくり上げた最初の「ロードスター」は、トヨタの豊田章男社長がほれ込むほど素晴らしい車だった。俳優のアーノルド・シュワルツェネッガーやグーグルの創業者ラリー・ペイジといった有名人がこぞって購入したことからもその性能の高さがうかがえる。

 

その意味ではロードスターは間違いなく良い車だった。環境が重視される時代に「電気自動車に乗るのは良いことだ」という理由で買った人もいたと思うが、どんなに良いものでも、車としての性能や品質が伴っていないと広がっていかない。

 

「発明王」トーマス・エジソンが、こんなことを言っている。

 

「良いものは絶対に1人では動いてくれない。そいつを動くようにさせなければならないんだ」

 

エジソンといえば、1879年に白熱電灯を発明したエピソードが有名だ。

 

彼の白熱電灯開発物語は、広く世界の人に知られているが、もしエジソンが発明しただけで満足してしまっていたら、「電気の時代」は訪れなかった。なぜなら、白熱電灯を普及させるには発電・送電のシステムの設置や白熱電球のコストダウンが必要だったからだ。

 

そこでエジソンは「電灯が実際に使われるようにする」ことを自らの役割と考え、1881年、ニューヨークにエジソン電気照明会社(GEの前身)を設立するとともに、白熱電灯工場や発電所の設置も行なっている。効率の良い発電機や送電線などをつくり上げることで、工場や一般家庭で「電気を使う」ことができるようにしたのだ。

 

後にフォードを設立するヘンリー・フォードはこう話している。

 

「せっかくの白熱電灯も、もしエジソンが無数の課題を解決して発電と配電両方の新方式を完成させていなければ、単に面白い玩具に過ぎなかった」

 

どんなに素晴らしい発明も、それだけでは社会を変えることはできない。みんながそれを使えるようにインフラ整備することで、ようやく社会を変えることができる。

 

さて、マスクがロードスターをつくり上げたのはすごいことだ。ただそれだけなら「高価な格好いいおもちゃをつくった」という評価で終わっていたかもしれない。しかし、マスクは違った。エジソン同様に、電気自動車を広めるための様々な工夫を、同時進行で進めたのだ。それによって、念願だった電気自動車の時代へと踏み出すことができたのである。

 

電気自動車に限らず、エコカーを普及させる上で最も大きな障壁はインフラにある。

 

トヨタやホンダはもともと、燃料電池車に力を入れていたため、水素の供給インフラをどうやって築くかを課題としていた。マスク以前の電気自動車も、1回の充電で走ることのできる走行距離が短いことから、「もし砂漠の真ん中で充電切れが起きたらどうするんだ?」という課題にぶち当たっていた。

 

実際、大手自動車メーカーも電気自動車を開発することはできても、肝心のインフラの問題を解決できなかった。そこでマスクは、モデルSの発売と同時並行で急速充電器「スーパーチャージャー」を開発、20分の充電で200キロ以上(現在15分で275キロ)走れるようにした。また、充電設備を全米に100ヶ所以上(現在は世界に3万ヶ所以上)設置、アメリカ本土を横断できるだけのインフラを用意した。

 

さらに、テスラユーザーはスーパーチャージャーを無料で使えるようにした。この施策によって、電気自動車はガソリン価格高騰の影響を受けなくなり、テスラ車の優位性を示すことができた。加えて充電施設とソーラーシティの太陽光発電を組み合わせれば、費用も安くできる上に「環境にやさしい会社」としてアピールでき、行政の支援も期待できる。

 

また、こうした整備を進めることで、1回の充電費用がガソリン車に比べ圧倒的に安くなる。そうすれば、たとえ電気自動車の価格そのものはガソリン車より高かったとしても、長い目で見れば「お得感」をアピールできる。

 

その上でマスタープランに沿って徐々に低価格の電気自動車の開発を推し進め、巨大な電池工場「ギガファクトリー」を稼働させて電池の価格を下げれば、さらに電気自動車の価格を下げることができる。

 

それまで大手自動車メーカーがやっていたのは、エコカーを普及させるためのインフラ整備を国に要請することだった。ところが、マスクはエジソンが自ら発電や送電システムの構築に乗り出したように、自力でインフラ整備をし、太陽光発電を利用できるようにした。

 

このように、マスクは良いものをつくるだけでなく、「良いものを広めるための努力」を惜しまなかった。そのことによって普及を阻む壁を突破することができたのだ。単に素晴らしいものを開発した、に留まらず普及させるためのアイデアを出し、実現していく。

 

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※本連載は桑原晃弥氏の著書『イーロン・マスク流 「鋼のメンタル」と「すぐやる力」が身につく仕事術』(プレジデント社)より一部を抜粋し、再編集したものです。

イーロン・マスク流 「鋼のメンタル」と「すぐやる力」が身につく仕事術

イーロン・マスク流 「鋼のメンタル」と「すぐやる力」が身につく仕事術

桑原 晃弥

プレジデント社

世界一の大富豪にして、ツイッター買収騒動を起こし、「日本消滅」をツイートした男、イーロン・マスク。2022年版『フォーブス』の長者番付で、マスクは「世界一」の座に輝いた。総資産は2190億ドル(約30兆円)と、2位のアマゾ…

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