孫中心に組み替えられていった夫婦の週末
秀一さん(仮名・66歳)と妻の典子さん(仮名・66歳)は、二人暮らしをしています。夫婦の年金は月32万円ほど。住宅ローンは完済し、貯蓄も約5,300万円ありました。
老後資金に大きな不安はなく、退職後は旅行や趣味を楽しむつもりでした。
「平日に温泉へ行けば、混んでいなくていいね」
そう話していた夫婦の予定を変えたのは、車で30分ほどの場所に住む長女一家でした。長女夫婦は共働きで、小学生と幼稚園児の子どもがいます。
最初に頼まれたのは、月に一度ほどの孫の預かりでした。
「土曜日だけお願いできない? 仕事が入ってしまって」
孫に会えることがうれしく、二人は快く引き受けました。昼食を用意し、公園や商業施設へ連れて行く。帰りにはおもちゃや菓子を買うこともありました。
「次はいつ、おじいちゃんの家に行けるの?」
そう聞かれると、秀一さんも典子さんも顔をほころばせました。
しかし、長女からの依頼は次第に増えていきます。土曜日の預かりだけでなく、習い事への送迎、日曜日の昼食、発表会や学校行事への付き添いまで頼まれるようになりました。
「今週末もお願いしていい?」
週の半ばになると、長女から連絡が入ります。夫婦は自分たちの予定を入れず、週末を空けて待つようになりました。
一度、以前から予約していた一泊旅行と依頼が重なったことがあります。
「その日は旅行だから難しいよ」
秀一さんが断ると、長女は困った声で言いました。
「今から別の人を探すのは無理なんだけど。孫たちも楽しみにしていたのに」
結局、夫婦は旅行をキャンセルしました。
「私たちが悪いみたいに言われると、断れないわね」
典子さんはそう言いましたが、長女に直接不満を伝えることはできませんでした。
負担は費用にも表れました。孫が2人来れば、食事やおやつだけでなく、外出費やガソリン代もかかります。誕生日や行事以外でも、ねだられるとつい財布を開いてしまいました。
総務省『家計調査報告 2025年(令和7年)平均』によると、65歳以上の夫婦のみの無職世帯では、可処分所得が月約22万2,000円であるのに対し、消費支出は約26万4,000円です。平均では毎月約4万2,000円の不足が生じています。秀一さん夫婦には貯蓄がありますが、年金額が高めでも、日常の支出が収入を上回れば資産は少しずつ減っていきます。
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