マスクは常に最短のスケジュールを口にします。しかもスケジュールは頻繁に延期になるものの、「言ったことは最終的には必ず実現する」のがマスクの真骨頂です。経済・経営ジャーナリストの桑原晃弥氏が著書『イーロン・マスク流 「鋼のメンタル」と「すぐやる力」が身につく仕事術』(プレジデント社)で解説します。

マスクは「楽観的な計画」を平気で口にする

■楽観的に構想し、現実的に計画し、楽観的に実行するんだ

 

マスクが「アイデアがあればすぐに実行する」ことができる理由の一つは、「楽観的な計画を平気で口にできる」ところにある。

 

それも、常に最短のスケジュールを口にするのがマスクである。

 

スペースXでもテスラでも、打ち上げ予定日や製品の完成日、納期などについてみんなが「えっ」と驚くようなスケジュールを口にしては、延期するということを繰り返している。

 

ある記者会見の席上、記者から「ファルコン1(スペースXの打ち上げロケット)の当初の打ち上げ予定は2003年だったはずだが」と質問され、「本当ですか? そんなふうに申し上げましたか? そんなバカなことはない」ととぼけてみせたり、延期の理由を何事もなかったかのように述べるなど、マスクの「約束をしては平気で延期をする」は有名だ。

 

実際、ロケットが完成もしないうちから、第一号ロケットをカリフォルニア州ヴァンデンバーグ空軍基地(現・宇宙軍基地)から打ち上げることを公言していた。また、1機のロケットも打ち上げていないにもかかわらず、ファルコン1と並行して、5基のエンジンを搭載したファルコン5の開発に着手することも明言していた。

 

誰が考えても、「そんな無茶な」と言いたくなるような計画ばかりだが、マスクにとってこれらの計画は必ず実行できるはずのものだった。

 

電気自動車に関しても、こんなことを言っている。

 

「自動車は完全に電気に移行する。それがいつなのかが問題なのであって、なるのか、ならないのかは問題にならない」

 

実に巧みな言い方だ。「いつなのか」は明言しないが、「電気自動車の時代がくるのは確実だ」と言い切っている。つまり、テスラでも、スペースXでも、マスクはしばしばあまりに楽観的過ぎるスケジュールを口にして顰蹙を買うことがある。

 

しかし、最終的に「言ったことが実現できなかった」ことはほとんどない。

 

スケジュールは頻繁に延期になるものの、「言ったことは最終的には必ず実現する」のがマスクである。記者会見でこんなことを口にしている。

 

「スケジュールに関しては楽観的だったかもしれませんが、結果については大げさな約束をしたことはありません。やると言ったことを実行してきただけです」

 

確かにファルコン1は、当初のスケジュールより大幅に遅れたものの2008年には打ち上げに成功している。テスラ初の量産車となったモデル3も、2018年7月には週5000台の生産目標を達成している。

 

スケジュールの見通しは甘くとも、約束したことは必ず実行してみせる。

 

だからこそ、人々はマスクのあまりに楽観的な計画に呆れながらも「いつかは実現するのだろう」と信じることができるのだ。

 

京セラ創業者の稲盛和夫によると、「不可能」と思えることに挑戦する時の秘ひ 訣けつは「楽観的に構想し、悲観的に計画し、楽観的に実行する」だという。

 

新しいアイデアを思いついた時、悲観的な人に相談すると、どんないいアイデアも冷や水を浴びせられて、しぼんでしまう。そこで稲盛は、少しおっちょこちょいでも、自分の意見を「面白い」と言ってくれる人に話すという。冷静さや批判は後でいいのだ。

 

構想段階では、それくらい楽観的な方がうまくいく。

 

ただし、構想を計画に落とし込む時には、失敗のリスクを考慮するため悲観論に立ち、慎重かつ緻密な計画を練り上げる。

 

そして計画を実行する段になったら、再び楽観論に戻り、大胆かつ思い切った行動をする。こうして「不可能」と思えるアイデアも、現実のものにすることができるのだ。

 

アイデアを思いつき、それを実行に移す際の「楽観論」については、グーグルの創業者ラリー・ペイジもこう言っている。

 

「こうしようと決めた目標に向かう時は、ちょっと間抜けでなくちゃいけないのさ。僕が大学で学んだ言葉に、こんなのがある。『不可能に思えることにはできるだけ無視の姿勢で臨むこと』。これって本当にいい言葉だろう。できるはずがないと思われていることに挑戦すべきなんだ」

 

ラリー・ペイジは早くからマスクの支援者であっただけに、2人の考え方、仕事のやり方はよく似ている。「アイデアを思いついたらすぐに実行する」には、計画段階であまりに時間をかけ過ぎることは実行を阻むことになりやすい。完璧な計画があればもちろん理想的だが、新しいことというのは「やってみなければわからない」。楽観的に構想し、少しだけ現実的に計画し、楽観的に実行するのがマスクの仕事術である。

 

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    ※本連載は桑原晃弥氏の著書『イーロン・マスク流 「鋼のメンタル」と「すぐやる力」が身につく仕事術』(プレジデント社)より一部を抜粋し、再編集したものです。

    イーロン・マスク流 「鋼のメンタル」と「すぐやる力」が身につく仕事術

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    桑原 晃弥

    プレジデント社

    世界一の大富豪にして、ツイッター買収騒動を起こし、「日本消滅」をツイートした男、イーロン・マスク。2022年版『フォーブス』の長者番付で、マスクは「世界一」の座に輝いた。総資産は2190億ドル(約30兆円)と、2位のアマゾ…

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