本田宗一郎「まずありたき姿を考える」
■創業者のエピソードの伝え方
企業の創業者は、企業理念の言葉や大切にしている考えをエピソードの形で語っています。
例えば、松下幸之助は、自身が唱える「水道哲学」について、以下のようなエピソードを語っています。
<「このころの私には商売に対し反省がわいていた。いままでは世間の通念どおりの商売をやってなんとかうまくいっていたが、次第にこれでは物足りないという気持ちが出てきた。一体生産者の使命はなんだろう、こんなことを連日夜おそくまで考えた結果、私なりに一つの信念が生まれた。
それは簡単にいうと、この世の貧しさを克服することである。社会主義者みたいなことをいうようだが、たとえば水道の水はもとより価のあるものだ。しかし道端の水道を人が飲んでもだれもとがめない。これは水が豊富だからだ。
結局生産者はこの世に物資を満たし、不自由を無くするのが務めではないか。こう気付いた私は昭和七年の五月五日を会社の創業記念日とした。開業した大正七年から十四年も経ってから新しい創業記念日を設けるとは不思議に思われるかもしれないが、私が使命を知ったときとしてこの日を選んだのだ。……」
『松下幸之助 夢を育てる─私の履歴書』(日経ビジネス人文庫)より>
松下幸之助の水道哲学がどのようにして生まれ、どのような考え方なのかが良くわかりますね。
では、もう一つ、本田宗一郎「まずありたき姿を考える」です。
<「さて、英国のマン島では毎年世界各国の優秀なオートバイ関係者が集まり技術を競うTTレース(ツーリスト・トロフィー・レース)というのがある。四百二十キロを一気に突っ走るたいへんなもので、ここで優勝することはオートバイ関係者の夢であり、誇りともなっている。そこで私もこのレースにいどもうと決意、二十九年(一九五四年)三月、このレースに参加する旨、代理店の人たちに宣言した。(中略)
そこで、二十九年六月、ようすを見に英国のマン島に行ったのだが、私はこのレースを実際に見てビックリした。ドイツのNSU、イタリアのジェレラーなどという優秀なレーサー(競走車)がものすごい馬力で走っている。同じ気筒容量でも、当時私の作っていたオートバイの三倍もの馬力である。これはえらいことを宣言してしまった。希望が達成されるのはいつの日のことやらと半ば悲観し、半ばあきれてしまった。
レースを初めて見てビックリするやら悲観するやらの私であったが、すぐ持ち前の負けぎらいが頭をもたげてきた。外人がやれるのに日本人にできないはずがない、そのためには一にも二にも研究をしなければと考えて、帰国後さっそく研究部を設けた。…」
『本田宗一郎 夢を力に─私の履歴書』(日経ビジネス人文庫)より>
本田技研では、その後レース用のバイクの研究開発を行い、7年後にこのマン島レースを制することができました。7年かけて本田宗一郎の夢が実現したわけです。これをきっかけに、その後ホンダの躍進が始まり、世界一のバイクメーカーに駆け上っていきました。
ホンダでは「夢」が大切にされますが、それは、本田宗一郎のこうした成功体験と「まずありたき姿を考える」という考えから出ているのです。
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