豊田章一郎氏死去!トヨタを世界有数の自動車メーカーに育てた「豊田綱領」豊田佐吉の教え (※写真はイメージです/PIXTA)

企業は、トップ、経営者の意思決定とリーダーシップが重要です。その判断がぶれたり、よこしまになったりすれば、存続が危うくなります。経営コンサルタントの井口嘉則氏が著書『リーダーのための人を動かす語り方』(日本能率協会マネジメントセンター)で解説します。

本田宗一郎「まずありたき姿を考える」

■創業者のエピソードの伝え方

 

企業の創業者は、企業理念の言葉や大切にしている考えをエピソードの形で語っています。

 

例えば、松下幸之助は、自身が唱える「水道哲学」について、以下のようなエピソードを語っています。

 

<「このころの私には商売に対し反省がわいていた。いままでは世間の通念どおりの商売をやってなんとかうまくいっていたが、次第にこれでは物足りないという気持ちが出てきた。一体生産者の使命はなんだろう、こんなことを連日夜おそくまで考えた結果、私なりに一つの信念が生まれた。

 

それは簡単にいうと、この世の貧しさを克服することである。社会主義者みたいなことをいうようだが、たとえば水道の水はもとより価のあるものだ。しかし道端の水道を人が飲んでもだれもとがめない。これは水が豊富だからだ。

 

結局生産者はこの世に物資を満たし、不自由を無くするのが務めではないか。こう気付いた私は昭和七年の五月五日を会社の創業記念日とした。開業した大正七年から十四年も経ってから新しい創業記念日を設けるとは不思議に思われるかもしれないが、私が使命を知ったときとしてこの日を選んだのだ。……」

『松下幸之助 夢を育てる─私の履歴書』(日経ビジネス人文庫)より>

 

松下幸之助の水道哲学がどのようにして生まれ、どのような考え方なのかが良くわかりますね。

 

では、もう一つ、本田宗一郎「まずありたき姿を考える」です。

 

<「さて、英国のマン島では毎年世界各国の優秀なオートバイ関係者が集まり技術を競うTTレース(ツーリスト・トロフィー・レース)というのがある。四百二十キロを一気に突っ走るたいへんなもので、ここで優勝することはオートバイ関係者の夢であり、誇りともなっている。そこで私もこのレースにいどもうと決意、二十九年(一九五四年)三月、このレースに参加する旨、代理店の人たちに宣言した。(中略)

 

そこで、二十九年六月、ようすを見に英国のマン島に行ったのだが、私はこのレースを実際に見てビックリした。ドイツのNSU、イタリアのジェレラーなどという優秀なレーサー(競走車)がものすごい馬力で走っている。同じ気筒容量でも、当時私の作っていたオートバイの三倍もの馬力である。これはえらいことを宣言してしまった。希望が達成されるのはいつの日のことやらと半ば悲観し、半ばあきれてしまった。

 

レースを初めて見てビックリするやら悲観するやらの私であったが、すぐ持ち前の負けぎらいが頭をもたげてきた。外人がやれるのに日本人にできないはずがない、そのためには一にも二にも研究をしなければと考えて、帰国後さっそく研究部を設けた。…」

『本田宗一郎 夢を力に─私の履歴書』(日経ビジネス人文庫)より>

 

本田技研では、その後レース用のバイクの研究開発を行い、7年後にこのマン島レースを制することができました。7年かけて本田宗一郎の夢が実現したわけです。これをきっかけに、その後ホンダの躍進が始まり、世界一のバイクメーカーに駆け上っていきました。

 

ホンダでは「夢」が大切にされますが、それは、本田宗一郎のこうした成功体験と「まずありたき姿を考える」という考えから出ているのです。

 

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    株式会社ユニバーサル・ワイ・ネット 代表取締役
    オフィス井口 代表

    岐阜県出身。東京大学文学部社会学科卒業、シカゴ大学MBA。

    日産自動車にて情報システム部門、海外企画部門を経験、中期計画・事業計画を担当。三和総合研究所(現三菱UFJリサーチ&コンサルティング)にて、中堅~大企業向けに中計策定支援をはじめ、数多くの経営コンサルティング案件を手がける。その後、IT系などのコンサルティング会社を経て、2008年にオフィス井口設立。2009年から株式会社ユニバーサル・ワイ・ネット代表取締役。

    2010年代には中央大学ビジネススクール客員教授、立教大学経営学部講師、対外経済貿易大学客員教授(中国・北京)等も務める。

    クライアント企業の新規事業企画コンサル、中期経営計画策定やワークショップ方式の企業研修講師を多く務める。「研修程度の費用でコンサル以上の成果を」が売り。研修・講師実績多数。研修・セミナー等は年間100回程度のペースで実施(Zoom等を使ったオンラインセミナーや研修も実施している)。

    【主な著書】
    『マンガでやさしくわかる中期経営計画の立て方・使い方』(2019年)
    『マンガでやさしくわかる経営企画の仕事』(2018年)
    『マンガでやさしくわかる事業計画書』(2013年)
    『ゼロからわかる事業計画書の作り方』(2009年)
    (以上、日本能率協会マネジメントセンター)

    『これならわかるマンガで入門!新規事業のはじめ方』(ダイヤモンド社、2015年)
    『中期経営計画の立て方・使い方』(かんき出版、2008年)
    『経営戦略のフレームワークがわかる』(産業能率大学出版部、2011年) ほか

    著者紹介

    連載なぜあの人の言葉は刺さるのか?「話し方」と「語り方」の違い

    ※本連載は井口嘉則氏の著書『リーダーのための人を動かす語り方』(日本能率協会マネジメントセンター)より一部を抜粋し、再構成したものです。

    リーダーのための人を動かす語り方

    リーダーのための人を動かす語り方

    井口 嘉則

    日本能率協会マネジメントセンター

    最近、リーダー職や管理職になって悩む方を多く見かけます。「どうやったら部下に分かってもらえるんだろう?」「なぜ言うことを聞いてもらえないんだろう?」という悩みを打ち明けられます。 考え方は人それぞれで、考え方が…

    事業計画書の作り方100の法則

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    井口 嘉則

    日本能率協会マネジメントセンター

    経営環境が激変する最悪シナリオを乗り切る「事業計画書」の立て方・作り方とは? 「ビジョン・戦略立案フレームワーク」で何を/どの段階で行うかがわかる“これからの”実践教科書。 コロナ禍にあっても、事業計画の立…

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