創業者の豊田佐吉の考え「豊田綱領」
■長続きする企業ほど価値観を大切にしている
理念とそれを体現したエピソードの重要性は理解して頂けたかと思いまますが、では理念が、それ程大切なものかどうかを見ていきましょう。
ジェームズ・C・コリンズ他が書いた『ビジョナリーカンパニー』(日経BP社)という本があります。彼らは、時代を超えて繁栄する企業の条件を見つけようと、同じ業界で長く良い業績を続けている企業とそうでない企業とをいろいろな業種について比較対照してみました。
その結果、一つだけはっきりとした共通点があることが分かりました。それは、繁栄を続けている企業は、「基本理念」を大切にしているということでした。
基本理念というのは、基本的価値観+目的のようなものを指しています。
そして、繁栄を続けている会社は、
(1)比較対照企業よりも、基本理念を従業員に徹底して教化し、理念を中心に、カルトに近いほど強力な文化を生み出している
(2)基本理念にあっているかどうかを基準として経営陣を慎重に育成し、選別している
(3)目標、戦略、戦術、組織設計などで、基本理念との一貫性を持たせているということでした。
また、「利益を越えて」ということで、「収益力は、会社が存続するために必要な条件であり、最も重要な目的を達成するための手段だが、それ自体が目的ではない」等とも考えられていました。
利益中心主義のイメージが強いアメリカの企業が分析対象に多く入っていたにもかかわらず、意外な結論になっています。
ビジョナリーカンパニーでは、その他いくつかの共通点が述べられていますが、一番重要なのは、この基本理念を大切にするということでした。この基本理念という言葉は、我々が本書で使っている企業理念とほぼ同一であると考えていいと思います。
日本企業でも、長続きしている会社で社是社訓や理念を大切にしている会社があります。
旧財閥系企業の中で最も歴史が古い住友グループは、室町将軍に仕えた始祖・住友忠重が「住友姓」を称したことに始まるそうですが、もともとあった家法を、明治時代になって1891年「住友家憲」(家長の職責、全十四ヵ条)と「住友家法」(事業運営方針、第一編十七章・第二編六章から成る)とに分けたということで、古くから家法=住友家の憲法のようなものを大切にしてきたようです。
ただバブル期に、不正融資を行い、「浮利を追わず」の家法に背いているではないかと批判されたことがありました。それは、家法に従わず、時の経営者の指示に従ったからそうなってしまったのです。やはり、家法は守らなければいけなかったものでした。
一方、トヨタ自動車は、もっと歴史が浅いですが、創業者の豊田佐吉の考えをまとめた豊田綱領を今でも大切にしています。
引用してみましょう。
豊田綱領
一、上下一致、至誠業務に服し、産業報国の実を拳ぐべし
一、研究と創造に心を致し、常に時流に先んずべし
一、華美を戒め、質実剛健たるべし
一、温情友愛の精神を発揮し、家庭的美風を作興すべし
一、神仏を尊崇し、報恩感謝の生活を為すべし
古い言葉で書かれてはいますが、意味は汲み取れると思います。
こうした綱領を大切にしているだけあって、トヨタ自動車関係では、あまり悪い話を聞かないですよね。
では長く続かない会社は、どうなっているかというと、たとえ企業理念はあっても、その時々の経営者が、儲け主義に走るとか、不正な手段を使って売上や利益を上げるとか、過大な投資を行って思ったほど売り上げが伸びず、借金で会社を傾かせるとか、不良品を販売して、顧客離れを招く等のことを行って、立ちゆかなくなり、つぶれたり、他企業の傘下に入るなどしたりして、消えていくわけです。
企業は、トップ、経営者の意思決定とリーダーシップが重要ですから、その判断がぶれたり、よこしまになったりすれば、存続が危うくなるわけです。
ですので、きちんとした正しい考えに基づいた企業理念・価値観のもとに経営が行われていく必要があるわけです。これは、個人についてもいえることです。人として正しい考えを持ち、そして、それに対してぶれないように行動していくことが大切だということです。
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