(※写真はイメージです/PIXTA)

社員に危機感を持たせるにはどのように話をすればいいのでしょうか。危機意識を語る一方で、不安を煽ってはいけません。危機意識と不安は紙一重なのです。コンサルタントの井口嘉則氏が著書『リーダーのための人を動かす語り方』(日本能率協会マネジメントセンター)で解説します。

日産では「史上最大の赤字」を伝えた

■危機意識を持たせる語り方

 

危機意識を持たせる語りをどのようにしたらいいのでしょうか。先にみた日産のゴーンの例やパナソニックの中村さんの例を元に5つのステップに構成してみました。

 

(1) リアルで具体的な悪い事実・予想の提示

 

まず、社員にはリアルで具体的な事実を突きつける必要があります。日産の場合もパナソニックの場合も、史上最大の赤字という事実からスタートしました。

 

仮に、まだ主だった実績・事実がない場合には、このままいくとこんなに悪いことが起きるという予想・予測でも構いません。

 

これらが提示された時点で、聞き手に「やばさ感」が強く感じられる必要があります。

 

(2)納得性のある分析

 

次に、なぜそのような悪い事態に立ち至ったのかについて、納得性のある分析が必要です。日産の場合には、マーケットインの考え方が希薄で、出しても売れない車を作っていたこと、経営目標を立てても、その達成に対して執着心がなく、仮に達成できなくても責任を取らないというような無責任体質等が原因として示されました。

 

パナソニックの場合には、製品別事業部制という狭い視野での事業運営を行ってきたため、競合他社に比べ、製品開発や投資の面で後手に回ったという反省がありました。

 

(3) 話し手の危機感(感情)が言葉(声)に現れている

 

続いて、(1)や(2)を通して、語り手が、強く危機意識を持っているということが、言葉の端々に満ちている必要があります。「このままでは、うちの会社は潰れてしまいます。」というような強烈な危機感が言葉に乗って伝わっていく必要があります。

 

(4) 聞き手に当事者意識を持たせる

 

ここまでの話で、「やばさ感」が伝わったところで、それが聞き手の社員にとって、それは自分たちのことであるという当事者意識を持たせる必要があります。

 

日産の場合には、無責任体質を改め、コミットメント=必達目標ということで、立てた目標は必ず達成するという考え方に変えなければならないことが示されました。

 

また、パナソニックでは、事業部制を解体し、大ぐくりなカンパニー制に移行し、より広い事業領域で、責任を果たしていくように求めました。

 

(5) どう考え、行動したらよいのかの方向付け

 

当事者意識を持たせたところで、ではどう考え行動したらよいかの方向付けを行います。危機感を持たせても、どこかに出口をガイドしてやらないと、「出口なし」となって、万事休す=降伏モードになってしまっては元も子もないからです。

 

出口が示されれば、皆そこに雪崩を打ったように駆け出します。日産の場合には、コミットメントを必達目標として、さらにその上のターゲットというものも設定させてより高い目標設定を求めることにしました。

 

パナソニックの場合には、事業部制からカンパニー制に移行し、カンパニーごとの事業戦略・製品戦略を立案して競合と戦うことにしました。

 

研修会などの場では、受講者の方々に、部下の人たちに向けて、危機意識の語りができるように、以上の5ステップで話を構成するように指導しています。うまく構成できると、かなりピリっとします。一方、あまりうまく構成できないと、頭の中に「?」マークが残りよろしくありません。読者の皆さんも、自分の会社、仕事に紐付けて危機意識の語りを組み立ててみてください。

 

■ただし不安を煽ってはいけない

 

危機意識を語る際に、注意してもらいたいのは、不安を煽ってはいけないということです。人間不安になると、突かれた亀のように手・足・首をすくめて、動かなくなってしまいます。危機意識の語りというのは、本来、聞き手を今いるタコ壺から飛び出させるために行うものですから、危なそうだから今のままタコ壺に潜んでいようと思われたら大失敗となります。

 

不安と危機意識は紙一重の違いです。危機意識は、やばいと思って飛び出させなければならないのです。そのためには、先ほどお話をした、(5)どう考え行動したらよいかの方向付けが必要になるのです。つまり出口をガイドするわけです。「あっちに向かって出ろ!」という方向づけです。

 

以前、リストラが続いていたある会社で、受講者の人たちに「危機意識の語り」のセッションを行おうとしたら、人事の方から、「不安を煽るのはやめてくれ」と言われたことがあります。リストラが続いていたので、経営陣や幹部がナーバスになっていたのでしょう。

 

ただ、だからといって、「会社は大丈夫ですよ、心配いりません。」みたいなことを言っても、従業員は、「本当かな?」と多少疑問に思いながらも、「まあ会社がそう言っているんだから、このままこれまで通り仕事続けてればいいや。」と思われたのでは、改革なんて全く進みません。ですので、安心させるのではなく、また不安を煽るのでもなく、危機意識を持って改革活動に邁進できるように、動機付けを行う必要があるのです。

 

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※本連載は井口嘉則氏の著書『リーダーのための人を動かす語り方』(日本能率協会マネジメントセンター)より一部を抜粋し、再構成したものです。

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