(※写真はイメージです/PIXTA)

所有するビルの一室を「不動産業の事務所」として貸すことになった大家。借主へ引き渡した後、なんと借主は「レンタルオフィスの事務所」として使おうとしていることが判明しました。当然、大家は工事の中止を要望するも、借主から頼みこまれてやむなく「2年間だけ」使わせることに。これがトラブルの引き金となってしまいました……賃貸・不動産問題の知識と実務経験を備えた弁護士の北村亮典氏が、過去の判例をもとに解説します。

このケースを裁判で争う場合…過去の裁判事例は?

この信頼関係破壊の有無について、裁判で争われた場合には

 

・使用目的からの逸脱の程度

・使用目的違反による賃貸人側の不利益の程度

 

を総合考慮して決せられることになり、この点は、ケースバイケースの判断となりますので、具体的な過去の裁判事例を参考にしながら限界点を見定めていく必要があります。

 

本件の事例は、この用法違反による解除が問題となった東京高等裁判所昭和61年2月28日判決の事例をモチーフにしたものです。

 

この事例では、賃借人が契約目的に違反した用法で使用していたことは争いがなかったものの、賃貸人と賃借人との間で

 

現在の貸机業務は本賃貸借期間内とし、契約更新時には貴社と相談の上、廃止するものとする

 

との記載のある念書が取り交わされていたことの意味を巡って争いとなり、第一審の判決では、賃借人側の勝訴(解除は認められない)という結論となりました(理由は不明ですが、信頼関係破壊が認められないという理由に基づくものと推測されます)。

 

しかし、控訴審においては、裁判所は

 

・レンタルオフィスとしての使用形態は、「家主としては、全く人的信頼関係がなく直接の接触の乏しい多数の者が自己所有のビルの一室に出入りすることになるので、法律関係の複雑化をもたらすのみならず、かかる貸机業を営む者がビルの一室を賃借していると、事実上当該ビル全体の品位を損い、他の貸室に優良な賃借人の入居を確保することが困難となる」

・賃貸人側が、レンタルオフィスとして使用することに対して異議を述べており、実際に期間満了後に廃止する旨の念書も取り交わしていたという経緯

 

を重視して、賃貸人側の主張(解除)を認めました。

 

なお、念書のなかには「賃貸人と相談の上廃止する」という文言があり、賃借人側としては、

 

「念書に「相談の上」という記載があるから、協議の一致がなければ貸机業を廃止する必要がない」

 

と争いましたが、この主張に対して裁判所は

 

「貸机業廃止の具体的方法等について協議する趣旨、ないしは、もしも契約更新時の協議において合意に達すれば、貸机業の継続、あるいは何らかの条件を付しての継続等もありうるとの余地を残す趣旨の文言である」

 

と判断して、賃借人側の主張を認めませんでした。

 

この事例は、レンタルオフィス業態としての使用方法が、家主側にとって嫌われるものであり、ビル全体への影響(不利益)が大きいという事情を重視したものと思われます(この裁判例が出された当時と比べて、現在ではレンタルオフィス業はかなり広く普及してきているという社会情勢の変化もありますので、現在もし同じ理由で訴訟となった場合には違う判断となる可能性もあります)。

 

このように、「用法違反による賃貸人への不利益の程度」というものを慎重に検討して対応を見定める必要があります。

 

※この記事は、2020年3月22日時点の情報に基づいて書かれています(2023年2月15日再監修済)。

 

 

北村 亮典

弁護士

大江・田中・大宅法律事務所

 

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※本記事は、北村亮典氏監修のHP「賃貸・不動産法律問題サポート弁護士相談室」掲載の記事・コラムを転載し、再作成したものです。

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