(※写真はイメージです/PIXTA)

「借りている建物で火災を起こしてはいけない」というのは至極当たり前のことですが、借主が火災を起こしてしまったことを理由にただちに貸主が契約解除してよいかについてはケースバイケースだと、賃貸・不動産問題の知識と実務経験を備えた弁護士の北村亮典氏はいいます。今回の事例では、賃借物件で火災を起こしたラーメン屋店主が「火災は予測できなかった」として貸主と争いました。裁判所はどのような判断を下したのでしょうか、みていきましょう。

借主が火災を起こした…貸主は契約解除できる?

建物の賃借人は、借りている建物内において火災を起こさないように建物を使用する義務があります。

 

これは、法的にいえば、建物の賃借人は、善良な管理者の注意をもって賃借目的物を保管しなければならない、という賃借人の保管義務から導かれる義務となります(民法400条)。

 

したがって、賃借人が建物内で火災を起こしてしまった場合は、賃借人が負うべき保管義務違反、すなわち契約違反に該当します。

 

もっとも、それだけでストレートに解除が認められるわけではなく、賃借人が火災を発生させたことを理由に貸主が契約解除を求めた場合であっても、「信頼関係破壊の法理」が適用されて解除が認められない場合もある、という点です。

 

すなわち、賃貸借契約の解除の可否は「信頼関係破壊の法理」により判断されますので、形式的に契約違反に該当したからといって解除が認められるわけではなく、契約違反が当事者間の信頼関係を失わせる程度のものかどうか、という点でさらに検討を要することとなるわけです。

 

この点、賃借物件において火災を発生させた場合についての1つの判断基準として

 

「賃借人がその責に帰すべき失火によって賃借にかかる建物に火災を発生させ、これを焼損することは賃貸人に対する賃貸物保管義務の重大な違反行為にほかならない。したがって、過失の態様および焼損の程度が極めて軽微である等特段の事情のない限り、その責に帰すべき事由により火災を発生させたこと自体によって賃貸借契約の基礎をなす賃貸人と賃借人とのあいだの信頼関係に破綻を生じさせるにいたるものというべきである。」(東京地裁平成26年10月20日判決)

 

と述べている裁判例があり、これは1つの基準として参考になります。

 

すなわち、この裁判例の考え方によれば、

 

1.火災を発生させ、建物を焼損した場合、原則として信頼関係が破壊される
2.ただし、火災を発生させたことについての過失の態様および焼損の程度が極めて軽微である等特段の事情がある場合は、例外的に信頼関係が破壊されたとはいえない

 

ということとなります。

ラーメン店で起きた火災…契約解除に不服の店主

このように、賃借物件内で火災が発生した場合に解除まで認められるかは、ケースバイケースでの判断となるわけですが、火災を発生させたことによる契約解除が認められた事例として、東京地方裁判所平成26年10月20日判決の事例を以下紹介します。

 

この事例は、賃借人が1階の貸店舗内にて15年間にわたりラーメン店を営んでいたところ、階厨房内に設置された大型ガスコンロの炎の熱が内壁に張られたステンレス板を伝い、内壁内の木製の柱に伝導過熱して出火し、1階厨房内西側内壁の4m2が焼損した、という事案です。

 

賃借人側は、

 

・ラーメン店のため、コンロの火を仕込みから終業時間までの約12時間以上毎日付けていたという状況で、15年間にわたりなにも問題はなかったのであるから、ガスコンロの熱がステンレス版を伝って内壁に伝導加熱して出火するなど予測できなかった

 

・引火しやすいものの付近にガスコンロを漫然放置し引火・延焼したとか、従業員によるたばこの火の不始末とかがあったわけではない

 

などと主張して、信頼関係を破壊するような義務違反はない、として争いました。

 

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※本記事は、北村亮典氏監修のHP「賃貸・不動産法律問題サポート弁護士相談室」掲載の記事・コラムを転載し、再作成したものです。

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