良いモノを作れば売れる、ではない顧客起点のIoT発想
体験価値の実現にはCASE(※)の中でも「C(コネクテッド)」が重要な技術要素となる。一方で多くの企業でいまだにコネクテッドの意味が誤解されているように感じる。目的は顧客の体験価値を実現することである。コネクテッドは手段であり、目的ではない。
※CASE(コネクテッド:Connected、自動化:Autonomous、シェアリング:Shared、電動化:Electric)
2016年ごろから自動車産業を襲ったの4つの破壊的な潮流
少し歴史を振り返りながら解説をしていきたい。車のIT化は1990年代からカーナビゲーションシステムなどの車載器の発展とも連動しながら、渋滞情報など交通情報の提供や車両盗難防止、自動緊急通報といった移動体通信システム「テレマティクス」と呼ばれて進化してきた。
自動車メーカー各社は、例えば、「車がインターネットにつながって便利な専用オーディオが聞けるようになる」など、車の機能を中心に他社の差別化となるオリジナル機能の搭載を目指してきた。まさに「車が中心」のサービスを競ってきたと言える。
米国では各家庭で平均2台の車を保有しているが、こんな話がある。当時A社、B社と異なるメーカーの車に乗っている家族が、ただ同じ音楽を聴きたいだけなのに2台の車を乗り換えるたびに毎回設定を変えなければいけないというクレームだ。これぞまさにカスタマーファーストではなく、車ファーストの顧客体験になっていた。
シリコンバレーD-Labの活動でインタビューしたNSVウルフ・キャピタル・マネージングパートナーの校條浩氏の言葉をお借りすると、このアプローチは「IoT(InternetofThings)」になっておらず」、「ToI(ThingsofInternet)」である(図表3)。
このToIという産業はコト(顧客体験)ではなく、モノ(車の性能)が中心になってしまっており、顧客起点の企業と比べてアプローチの方向が逆であることを鋭く指摘している。ToIの視点では、良いモノを作れば売れるという発想で、自社のハードウエアプロダクトの機能を高め、顧客に提供することに終始してしまう。
一方、顧客起点のサービス企業は、まず体験価値を起点に顧客の課題をどのように解決できるか、対価を払うだけのサービスになっているかを考え、それに合わせてハードウエア側の機能を進化させる。先ほど紹介した車2台を保有する家庭を考えると、同じ顧客がどんな車に乗っても聴きたい音楽を楽しめる機能を提供するのが顧客起点のIoTの発想になる。
実際、昨今は自動車メーカーが自らの車体情報を開示しながらグーグルやアマゾンなどのIT企業と連携して、車載インフォテインメント(自動車におけるナビゲーションやマルチメディアシステム)のソフトウエアを開発する流れも出てきている。グーグルの場合であれば、顧客が保有するグーグルアカウントと車をシームレスに連携し、個人のライフスタイルに合わせた体験が提供されるという試みである。
テスラも自動運転ロボタクシー時代の体験を見据え、車中でゲームを楽しめるように取り組みを進めている。テスラ車でしか使えないような自前化を進める可能性もあったが、直近で5万本ほどのゲームを持つゲームプラットフォームのSteam(スチーム)との統合を発表し、オープン化を図った。やはりテスラもシームレスな顧客体験を最優先に考えているのである。
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