日本で伝えられる情報と、現地のリアル情報のギャップ
2017年からシリコンバレーD-Labリポート(※1)で一貫して伝えてきたのは、顧客にとっての価値が変わる瞬間である。
テックジャイアントのGAFAM(Google、Apple、Facebook(現Meta)、Amazon、Microsoft)について様々な分析がされている中で、彼らの顧客価値・体験創造プロセスに学び、企業の立ち振る舞いの本質を捉えることに注力してきた。言えることは、従来のサービス・商品企画のようにハードや機能的な変化だけではなく、顧客の体験価値の変化にこそ注目すべきということである。
シリコンバレーD-Lab(※2)の活動を通じて、自動車産業やデジタル業界における現地有識者と議論を深めていった。
そこで分かってきたことは、日本に伝えられている海外情報と、現地のリアル情報に大きなギャップがあるということだ。
当時(16年)はグーグルの自動運転の取り組みや、ウーバーテクノロジーズのライドシェアリングサービスが始まり、CASE(コネクテッド、自動化、シェアリング、電動化)を起点とした投資競争が起きていた。それにもかかわらず、日本では「自動運転の実現はまだ先の話」という楽観的な議論や、ウーバーは「白タク(自家用車の有償での相乗り)の解禁」といった見方が大勢を占めていた。
CASEが単なる技術開発の話ではなく、既存ビジネスの在り方を変える根本的な変化であることが、適切に伝わっておらず、日本企業の多くは、従来通り自動車の乗り心地や製品自体の品質の高さを競うことに終始していたように思う。
iPhoneに惨敗…電機業界での過去の成功体験が日本企業を盲目にした
過去の成功体験が呪縛になる場合がある。戦後から高度経済成長期にかけて、「三種の神器」と呼ばれた白黒テレビ、洗濯機、冷蔵庫は、人々の生活の課題を大きく改善するものとして一気に普及した。自家用車についても、1980年代には「1家に1台」が当たり前の状況となった。
こうした家電や自動車の普及段階の戦いでは、日本企業が強かった。壊れにくく品質の良いものを安く作るという競争に勝ってきたのだ。美しい画面のテレビや燃費性能の良い自動車を安い価格で作ることに注力してきた。当時はそれが勝ち筋だった。しかし、製品市場が成熟化し、競争軸がいつの間にか変わってしまったとしても、輝かしい成功体験がある企業が事業の方向転換を決断することは容易ではない。
電機業界でエポックメーキングな出来事の一つは、携帯電話からスマートフォンへの移行だろう。07年当時、携帯電話の競争軸はサイズの小型化、電池寿命、カメラの解像度だった。そこに米アップルが「iPhone」で切り込んだ。
当時の日本の携帯電話メーカーの一部では、電池がすぐになくなって毎日充電が必要、カメラ性能も劣り、ワンタッチで電話もできないiPhoneに対して、「脅威どころか比較対象にすらならない」と判断する傾向もあったという。
それまでの開発競争の中で、携帯電話の主要価値を電話機能とカメラ性能で考えていたために、iPhoneが持つ新しいコミュニケーションツールとしての体験価値に気が付かなかったのだ。ユーザーがどこでもインターネットと接続し、多様なコンテンツで新しい体験を得ることができる、まさに顧客の体験価値を変えるゲームチェンジが起きていた。
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