アメリカ発のGoProがカメラ業界に革新を起こした理由
民生用ビデオカメラでも同じことがあった。ビデオカメラは子供の誕生日や運動会といったイベントを録音・録画してきれいに残したいという顧客ニーズに応える商品であった。そのため、製品開発ではレンズ加工、画質や光学ズーム、手振れ補正といった精密技術が求められた。
一眼レフカメラと同様に高画質化は日本企業の得意な領域であり、半導体メモリーの進化によって小型のビデオカメラも生まれ、04年以降、ハイビジョン高画質化の競争となってからも日本企業は強かった。
そんな中、06年に突如登場したのが、アクションカメラの「GoPro(ゴープロ)」だ。テレビ番組のロケで芸能人が頭に付けて面白い映像を撮っている、あの小型カメラである。もともと、サーフィン好きなCEOが自分の波乗りを撮影するため、小型カメラを防水ケースに入れただけの商品だった。防水ケース入りのため録音した音はこもって聞こえにくく、頭に取り付けると画像の揺れがひどい。
当時のゴープロで撮影した動画は決して長く見られたものではなかった。ビデオカメラとは「画像と音声で感動を残すもの」と定義してきた既存メーカーにとって、ゴープロは「おもちゃ」でしかなった。
ところが、そのゴープロが、その後絶大な人気を博すこととなった。ゴープロは、従来のビデオカメラのメインターゲットである「第一子が誕生したファミリー向け」ではなく、当初から「40代独身男性」をターゲットにし、お金も時間もあって趣味を楽しみ、仲間に画像を共有したいというニーズを捉えようとしていた。
初期の販売ルートは家電量販店ではなくサーフィン専門店に置き、カメラ画素数などの数値を並べた従来型のスペック表ではなく、店頭のディスプレーでゴープロで撮影したプロサーファーやスノーボーダーの動画を流し続けた。
この店頭での体験展示により「こんなふうに格好良く波乗りしたい」といった憧れや共感が生まれ、それが製品の爆発的な普及につながった。まさに「モノからコトへ」、製品スペックよりも体験を求める時代になっていたのである。当時、その「おもちゃ」から発せられた大きな変化の信号に大手電機メーカーが気付くことは困難であった。
こうした電機産業で起こってきた従来の評価指標では測れない変化が、今まさに自動車産業でも起こり始めているのである。意識をして潮流の本質を捉えないと、その変化には気付けない。
モビリティ分野で起きているモノからコトへの変革はウーバーやテスラの事例からも見受けられる。両社は徹底した顧客体験の追求を行っており、これが将来のモビリティ産業のDXを考えるうえで重要となる。
【参考文献】
Blake Morgan(2021),3 Ways Tesla Creates A Personalized Customer Experience,Forbes,May102021
Nathan Furr and Jeff Dyer(2020),Lessons from Tesla’s Approach to Innovation,Harvard Business ReviewFebruary 12, 2020
玉田 俊平太(2015)日本のイノベーションのジレンマ,翔泳社,2015年
Salim Ismail(2014)Exponential Organizations: Why new organizations are ten times better, faster, and cheaper than yours,October 14, 2014
木村 将之
デロイト トーマツ ベンチャーサポート株式会社
シリコンバレー事務所パートナー、取締役COO
森 俊彦
パナソニック ホールディングス株式会社
モビリティ事業戦略室 部長
下田 裕和
経済産業省
生物化学産業課(バイオ課)課長
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