パワハラが原因で労災が認められた裁判事例
パワハラが原因で労災が認められた裁判事例は少なくありません。
ここでは、厚生労働省が運営する「あかるい職場応援団」に掲載されている事例から、3つご紹介します。
上司による叱責も考慮して業務起因性が認められた事例
Aが出血性脳梗塞を発症したことは勤務先企業での業務に起因するものであるとして、Aの妻が管轄の労基署長に対して、労災保険給付の不支給処分の取り消しを求めた事例です※3。
※3 厚生労働省 あかるい職場応援団:「時間外労働時間だけでなく、上司による叱責も考慮して、業務起因性が認められた事案」
Aは、発症前の1ヵ月間に徹夜作業も含む80時間近い残業をしており、これ以前も長時間の残業が常態化していました。
これに加え、上司から起立したままの状態で2時間を超えた叱責を受けており、肉体的疲労に加え心理的な負担も有していたようです。
この事例では、一審では業務起因性が否定されたものの、二審では業務起因性が認められ、労災保険の支給が決定しています。
上司の言動により精神障害を発症し、自殺におよんだと判断された事例
Aが精神障害を発症し自殺に至ったことは、上司によるパワハラが原因であり、業務起因性があるとして、Aの妻が労災保険給付の不支給処分の取り消しを求めて訴訟を提起した事例です※4。
※4 厚生労働省 あかるい職場応援団:「上司の言動により精神障害を発症し、自殺に及んだと判断された事案」
Aは上司から「存在が目障りだ、居るだけでみんなが迷惑している。おまえのカミさんも気がしれん、お願いだから消えてくれ」「お前は会社を食いものにしている、給料泥棒」などとしばしば厳しい言葉を浴びせられていました。
そうしたなかで、徐々に身体に変調が生じ、営業上でのトラブルも生じるようになった後、自殺をしています。
また、Aの遺書には、上司の言動が原因で自殺をする旨が記載されていたほか、周囲に上司との関係が困難である旨を打ち明けていたようです。
この事例では、Aの精神障害の発症と自殺について業務起因性が認められ、労災保険給付の不支給処分が取り消されています。
部下からの嫌がらせによる労災認定事例
Aが自殺を図ったことは業務による心理的負荷により精神障害を発病したことが原因であるとして、Aの遺族が労災保険の遺族補償給付などの不支給決定処分の取り消しを求めて提訴した事例です※5。
※5 厚生労働省 あかるい職場応援団:「部下の嫌がらせ・会社調査とパワハラ」
Aからの処遇に不満を持った部下は、Aが売上の着服や窃盗、セクハラを行っているなどのビラを作成し、親会社の労働組合に持ち込みました。
調査の結果着服などの事実は認められなかったものの、勤務先企業はAに始末書を提出させ、異動をさせています。
その後、部下は再度親会社に対してAが不正を働いているとのビラを持ち込み、勤務先企業が改めて調査をした結果、一部の不正(勤務先で酒を飲んだこと)のみをAが認めたことから、Aに対し別事業への異動と研修を命じました。
その後、Aは配転先店舗に出勤しないまま所在不明となり、自殺しています。
この事例では、精神障害の発症や自殺と業務との間に相当因果関係の存在を肯定することができるとして、遺族の請求が認められました。