「社員の数だけ雇用契約がある」
なぜ、社員が一番大事なのでしょうか。東日本大震災で家も会社も工場も流された経営者たちと会った時のことを話してくれました。
「人さえいれば会社は再建できるんだと彼らは言っていました。私はやっぱり人の力を信じます。まず人を大切にして人に成長してもらうことで、企業が成長すると信じている」
「自分の会社や自分が所属するチームや上司に共感を覚えない、あるいは自分が作る製品や自分が提供するサービスに確信を持てなくて、どうしてお客さんに喜んでもらえるのか。そこがないから偽造問題が起こったり、クレーム隠しが起こったりする。まず、社員自身が確信を持って満足して働いているという状態になって初めてお客さんを喜ばせることができる。これがグローバルスタンダードになると思います」
「圧倒的な当事者意識。健全な危機意識。共に生きていく仲間意識。この3つの意識を持った社員を抱えた企業は絶対につぶれませんね。発展します」
「年功序列制度はダメ。多様な評価が必要なので社員の数だけ雇用契約がある」
近藤さんは社員一人ひとりを見つめてきました。人事評価に使うモノサシは1本ではありません。社員の数だけあるそうです。
女性管理職はすでに3割。国籍、学歴に関係なく処遇。60歳の定年後も再雇用制度で、20年前から、希望者は65歳以上まで働くことができます
「能力もあって健康で意欲もある人たちを年齢だけで切るというのは非常にもったいない話」
65歳を超えても、会社が必要とするシニア社員は70歳まで再々雇用制度で働いています。現在、70歳以上の社員も4人いますが、健康が許せば、80歳まで現役として働きたいと言っています。
またMEBO(Management Employee Buyout)という手法で社員全員が株主になるような仕組みを作り、親会社から株式を買い取って独立しました。経営の自由度が高まり社員のモチベーションが上がったそうです。
2012年に取材した当時、“総務課長”は女性のパート社員。“経理課長”は女性の派遣社員でした。この“経理課長”いわく、「どんな立場の人でもいろんな意見が言えるし、それを聞いてもらえる」。当時、非正規社員だったこの2人の女性は現在、正規社員として働いています。
近藤さんは28歳の時、双子の男の赤ちゃんを授かりました。しかし、その喜びは一瞬でした。2人の赤ちゃんは重度の黄疸を発症し、生後3日で亡くなりました。
「私は絶望しました」
深い悲しみに包まれました。従業員を首切りする自責の念。幼い子どもを失った絶望感。近藤さんはこうした苦難と向き合いながら、良い会社を創り上げようとしてきました。
「身の回りで起こったことは必要であり、必然であり、ベストだったんだと今は思えるようになりました。その間に、左遷されるわ、やりたくない仕事は押し付けられるわ、嫌なことは回ってくるわ、いろいろありました」
近藤さんは、どんなに腹が立っても社員を怒鳴らないそうです。
「怒鳴る言葉は、真っ先に自分の耳に入ってくる。そうすると自分がダメージを受ける。言葉は刃物。自分に刺さってくる。だから怒らないんです」
人の痛みが分かる人の言葉です。
コロナ禍の影響で、社員が工夫し合い、業績はアップしました。テレワークを進め、出勤しているのは社員の2割。経理の送金は自宅から。オンラインの会議で情報共有が密になり、営業力がアップしたそうです。
「経営の環境がどうあったって絶対に他責にしない」
会長になった近藤さんが今、一番大切にしている言葉です。他人のせいにして逃げない。今の日本人にとって、とても大切なメッセージだと思います。
岡田 豊
ジャーナリスト